このフーゴー・ヴォルフの「イタリア歌曲集」を聴いていると、恋愛とは何かという複雑で深い問いかけに対するヒントが浮かび上がってきそうだ。歌詞はイタリアの各地に伝わる読み人知らずの美しい恋愛詩をドイツ語に訳した詩集に収録されたもので、その中から選んだ46の詩に曲を付けたこの歌曲集は、ヴォルフの芸術性の頂点を示す完成度を誇っている。短い歌曲の一つ一つは、恋い焦がれる思い、誘惑、拒絶、良心の呵責といったさまざまな感情や恋愛の物語にまつわる深い洞察を含むものであり、時には非道で胸を突き刺すような内容もあるが、そこに見事に寄り添うヴォルフの楽曲は、優れた音楽を聴くことの他にはない喜びを改めて教えてくれる。現代最高峰の歌手である、ソプラノのディアナ・ダムラウとテノールのヨナス・カウフマンの2人は、詩と曲の奥深い機微を大切にしながら丁寧にかつ力強く歌い上げており、ピアニストのヘルムート・ドイチュも確かな技術と豊かな音楽性で絶妙な伴奏を聴かせる。