The Summer Portraits

The Summer Portraits

ルドヴィコ・エイナウディは、2023年の夏をイタリアのトスカーナ諸島にあるエルバ島で過ごした。その時に滞在した貸別荘の壁にかけられていたいくつもの絵画が、エイナウディが“夏の記憶”をテーマにしたアルバムを制作するきっかけとなる。これらの絵を描いたのは、1950年代にこの別荘を所有していた人や定期的にここを訪れていた宿泊客たちで、それぞれの絵は、青い空、緑の丘、遠くできらめく海など、別荘から見える自然の風景を捉えたものとなっている。「それらの絵画を見た私は、子ども時代に家族と過ごした夏、そして、私が過ごしてきたすべての夏へと思いをはせたのです」とエイナウディはApple Musicに語る。「いかに夏が、多くの美しい経験をする時であり、日が長く、光にあふれた季節であったかを思い出させてくれました」 しかし、本作でのエイナウディのサウンドが地中海の鮮やかな色彩や陽気さを反映するものになっているかというと、そうではない。ここにあるのは、フィリップ・グラス、マックス・リヒター、マイケル・ナイマンといった作曲家たちによるポストミニマリズムの音世界と共通する、シンプルなコード進行の繰り返しだ。そして、アルバム全体を覆うムードは、むしろメランコリックなものであり、それはエイナウディが、日の光にあふれていた過ぎ去りし時代に対して抱く、郷愁の念を表している。「世界は変わってしまいました」と彼は言う。「かつては澄み切っていた水が、今は濁っています。ですので、昔とは姿を変えてしまった場所や、今よりもずっとシンプルで純粋だった世界に郷愁を感じるのです」 エイナウディの中で音楽と記憶は密接に結び付いていて、彼の作品のタイトルも、しばしば特定の時間や場所、あるいは感情を思い起こさせる。アルバム冒頭の「Rose Bay」は、シドニーオペラハウスでの公演の前に楽屋で思い付いた、一連のコードに基づいている。「シドニーは、私の祖父で指揮者/作曲家のWando Aldrovandiが、30年間暮らした場所でもあります。私に最初に音楽を教えてくれたのは母だったのですが、彼女はいつも祖父のことを話していて、母が12歳の時に祖父が去って行ったことも話していました」。Aldrovandiは、イタリアのファシスト政権下で仕事をすることを拒否して、オーストラリアに移住したのだ。「それに対して、母はある種の距離感と喪失感を覚えていたようです」 それぞれの収録曲は、私たちを夏の思い出へといざなってくれる。「Punta Bianca」は、エイナウディが夏休みに訪れたシチリア島南部の海岸にある白い岩にちなんで名付けられた。また「Jay」は、彼の実家にやってくる一羽の鳥のことだという。エイナウディはトリノ郊外にあるその家に今も住み、そこで仕事もしている。「母がここに住んでいた頃、よく家に訪ねて来てくれていた鳥の親戚なのではないかと思っています」。「In Memory of a Dream」という曲名は、エイナウディが見たオーストラリアの家族の夢に由来する。「目が覚めたら、それが何だったのかすっかり忘れてしまっていました。でも、いい感触が残っていたので、それにタイトルを付けることにしました」 エイナウディはピアノで作曲することを好む。「一つのアイデアを弾き続けて、気に入ったバージョンが見つかるまで録音することがよくあります」と彼は言う。ロバート・エイムズが指揮するロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団とAbbey Road Studiosで録音したピアノとオーケストラのための楽曲でのエイナウディは、あるアイデアから始めて、それを繰り返して、楽器の旋律を一つずつ重ねて作品を作り上げていった。「Pathos」の場合は、クライマックスの時点から曲を作り始め、次いで大きなクレッシェンドのアイデアを取り入れて、それから逆算して曲の始まりを考え出したという。「Sequence」は、バロック音楽、特にヴィヴァルディの音楽に影響を受けている。同時に、この曲でも演奏を聴かせているヴァイオリニストのテオティム・ラングロワ・ド・スワルテによる、イギリスバロックの作曲家ジョン・エクルズの作品の録音からもインスピレーションを得ている。(ニコラス・ブリテルが作曲して人気となったサウンドトラック『Succession』の「Main Theme」に少し似ているのは偶然である) エイナウディのピアノをサポートするのは、ヴァイオリンとヴィオラのフェデリコ・メコッツィ、チェロのレディ・アサ、そしてマルチプレーヤーのFrancesco Arcuriという、いずれも俊英演奏家であるレギュラーメンバーだ。「私は何年もかけて自分のサウンドにたどり着きました」とエイナウディは語る。「最初の頃は知識もなかったので、まったくコントロールできませんでした。しかしその後、スタジオでさまざまなマイクやプリアンプを試す時間を持ったことで、理解が深まり、好きになったピアノの音に焦点を合わせることができたのです」 トリノの自宅スタジオには、アップライトピアノの他にスタインウェイのグランドピアノが2台ある。そのうちの1台は、音を柔らかくするためにハンマーの上のフェルトに二つ目の層を付けたものとなっている。「例えばビートルズがアルバムを作るとき、違うサウンドが欲しくなったらギターを替えればいいですよね。ピアニストは普通それができません。でも3台のピアノから選べる私はラッキーなのです」

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