

チャイコフスキーの、トータルで11時間にも及ぶソロピアノのための作品群は残念なことに広く親しまれてはおらず、演奏される機会にもあまり恵まれていない。しかしその中には知られざる名曲が多く含まれているのも事実だ。ウクライナ出身の世界的ピアニスト、ヴァレンティーナ・リシッツァは本作で、この膨大な隠された秘宝の山に光を当て、生き生きとした輝きを与えることに成功している。彼女のずば抜けた演奏力は「12 Morceaux, Op. 40」の"Etude"に顕著である。爆発的ともいえるエネルギッシュなオープニングとベーゼンドルファーのピアノから引き出す煌(きら)びやかな音色による高速フレーズは、リスナーの耳をくぎ付けにする。また「スラヴ行進曲」をはじめとするチャイコフスキーのおなじみの管弦楽作品をピアノ版で聴けるのも大きな楽しみとなっている。