

ジャスティン・ビーバー7作目のアルバムがサプライズリリースされる前日、アトランタからレイキャビクに至るまで、各地で一斉に広告看板が出現した。ケンドリック・ラマーの『Mr. Morale & The Big Steppers』のアルバムカバーアートを手掛けたフォトグラファーが撮影したモノクロ写真には、上半身裸のスーパースターが妻のヘイリーと幼い息子ジャック・ブルースと並んで映っていた。31歳になったビーバーは数か月前から珍しく胸の内をさらけだし、思わせぶりなデモ音源を公開したり、名声やメンタルヘルスと葛藤する様子をありのままに投稿したりしていた。「自分1人で過ちを正せるなら、とっくの昔にそうしてたはずじゃないか?」とは、6月に投稿されたInstagramのコメントだ。写真の隣には一言、「SWAG」と添えられていた。 2021年の前作『Justice』から4年、ポップスターの周りではさまざまな変化があった。長年連れ添ったマネージャーのスクーター・ブラウンと決別し、2024年8月には第一子が誕生。風のうわさでは、1980年代ポップやR&Bをベースにしたメランコリックなサウンドでオルタナティヴ界隈をにぎわせていたDijonやMk.geeらと密かにレコーディングしていたようだ(後に事実であることが判明)。そうしたプロデューサー陣の影響は全21曲収録のアルバム『SWAG』にも色濃く反映されている。オーガニックな音色、リバーブを多用した演出、そしてドリーミーなボーカルが全面に押し出され、これまでの研ぎ澄まされたポップアンセムとは対照的だ。 今作はビーバーにとってこれまでの流れをリセットするかのように、胸を焦がすラブソングと、「ZUMA HOUSE」をはじめとするはかなげなアコースティックデモや実験的なオルタナラップとがバランス良く並ぶ。ガンナ、Sexyy Red、Cash Cobainや、意外なところではクラウドラップのレジェンドであるLil Bなどがカメオ出演した楽曲や、コメディアンのDruskiがセラピスト役としてコントを演じるほのぼのしたトラックも収録されている。哀愁漂う穏やかなオルタナポップのサウンドをバックに展開する「DAISIES」「DEVOTION」などの楽曲は、結婚生活の複雑さを掘り下げたビーバー史上もっとも含蓄のあるラブソングだ。「When the money comes / And the money goes / Only thing that’s left / Is the love we hold(金は天下の回りもの/入っては消えていく/唯一なくならないものは/僕らが大事にしている愛情だけ)」とビーバーが歌う「BUTTERFLIES」は、パパラッチとのいざこざで幕を開けるが、公の場での危うい瞬間を逆手に取り、永遠に続くものへの賛歌として甘くソウルフルなナンバーに昇華している。