

2022年にリリースした『SOS』で、SZAは心の奥に潜む思いの丈を親密で共感できる音楽へと昇華できる世代随一のアーティストとしての地位を確立した。このアルバムは即座に名作と認められ、早速Apple Musicによる『100 Best Albums』にも選ばれた。そしてリリースから2年を経て、SZAは絶賛されたアルバムにさらなる名曲を追加収録したデラックスエディションを作り上げた。 『SOS Deluxe: LANA』で、シンガーソングライターの彼女はオリジナル版以上に率直な姿を見せる。新たに全42曲となったアルバムを通して、SZAは無防備に自分の弱さをさらけ出し、欠点を認めながら、心の平安を求める旅を続けていく。神秘的な雰囲気のオープニング曲「No More Hiding」では、アコースティックギターに乗せて声を弾ませながら、「愛しているもの全部、手放さないと/成長させたいなら壊さないと/すべてを二度作り上げる羽目になった/言わないで、分かってるから(Everything I love, I gotta let go/Gotta break it if you want it to grow/Had to build everything twice over/Don’t tell me ’cause I know)」と歌い、もはや自分に必要ないものを手放してより良い人間に成長していくという、自分の新たな一面を受け入れている。そして彼女はそこから先も自らの弱さを隠すことなく、感情の再覚醒への道を歩みながら、過去のパターンを断ち切ろうと試みる。例えば「What Do I Do」で有害なパートナーに傷付けられた心と折り合いをつけたり、「My Turn」「Conceited」「Forgiveless」では自分の自尊心を優先させ、「Chill Baby」では恐怖心を手放そうと葛藤する姿がつづられていく。 ソウルフルで粗削りなタイトルトラック「SOS」では、破局して一晩泣き明かした後で思ったことを率直に言葉にし、「くだらないことばっかり言ってる/もうたくさん、これで終わり(I talk bullshit a lot/No more fuck shit, I’m done)」と豪語してみせる。もはや自分のためにならない恋愛関係に疲れ切った彼女が見えるのはこの曲だけでなく、「Smoking on my Ex Pack」や「Far」も同じテーマだ。とはいえ、このアルバムのすべての曲が過去を乗り越え、関係を断ち切ることを歌っているわけではない。「Kitchen」「Too Late」「F2F」においては、SZAはいまだに自分でも間違いだと分かっていながら誤った選択をしがちなところがあることに触れる。そして「Scorsese Baby Daddy」で恋愛の毒に酔いしれてみたり、「Love Me 4 Me」「Special」で時には自分の価値を疑いもする姿を歌う。また、「Crybaby」では内省的になり、批評家やファンからも貼られるレッテルについて語っているが、そうした見方を拒絶するのではなく、自分の特性を受け入れ、自らの不完全さを認めてみせる。このアルバムで描かれるのは、強さを見せた次の瞬間に深い後悔や悲しみが交錯するという、潮の満ち引きのような心の動きだ。 SZAは歌詞だけでなく、サウンドにおいても成長を見せ続ける。最愛のローファイビートのミックスに加え、ポップやグランジ、パンクの要素、さらにはボサノヴァまで取り入れながらも、どれ一つ場違いに聞こえることがない。軽快でエネルギッシュな「BMF」では、スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルトによる「The Girl from Ipanema」のフレーズを巧みに織り交ぜながら、夢中になっている男性をたたえてみせる。フィービー・ブリジャーズを迎えたデュエット「Ghost in the Machine」では、スターダムの現実を深く見つめ、日常の交流にほんのわずかでも人間らしさを求める思いが描かれる。ストリングスやアコースティックギターを進歩的なアレンジで取り入れ、耳に残るボーカルが印象的な曲だ。 『SOS Deluxe: LANA』には、至るところに悟りと慈愛の瞬間があり、SZAは癒やしの過程に伴う不快感を味わいながらも、自分に課された試練や苦難の中に深い意味を見出そうとする。感情に溺れる自分を救ってくれる誰かを探し求めるのではなく、代わりに今の状況に安らぎを見出せるようになった彼女は、新たなレベルの自信を手に入れたのだ。