Editorial

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「とりあえず『やりたいことをみんなやろう』と話していました」。Official髭男dismのボーカル/キーボードの藤原聡は、アルバム『Editorial』についてApple Musicに語る。通算3作目のフルアルバムとなるこの作品には、バラエティに富んだ14の楽曲が並んでいる。前作『Traveler』(2019年)が大ヒットを記録し、まさに国民的な人気バンドとなった彼らだが、今回のアルバムではセールス的なものや大衆に支持されるかどうかという意識は横に置いて取り組んだという。「せっかくこうやってバンドとして自分たちのやりたい音楽をやって、それを受け取ってもらえるというありがたい、幸せな環境にいるなら、応援してくれているファンの方たちのためにも失礼のないように、しっかりやりたいなと思って。その結果、こういう曲がウケるとか、そういうのはいったんやめようってなりました。『自分がやりたいことをまず一番に考えようね』と」アルバムはタイトル曲の「Editorial」で幕を開ける。アカペラ、つまり声だけの演奏で歌われるこの楽曲では、“伝えたい だけど語れない”という感情がつづられている。彼らが抱く音楽への、そして自分たちの作品を聴いてくれるリスナーへの純粋な気持ちが垣間見える。「曲を全部並べてみたときに、すごい時間かけて、めっちゃつまずきながらこのアルバムを作ったということに気付いたんです。でも、そのつまずいたり、踏んだり蹴ったりみたいなのが楽しくて音楽やってるところもあるなと思って。プロフェッショナルなんて言葉が似合わないほど泥臭くて、要領悪くて、本当にミスばっかして、やっと自分たちの一番理想的だと思う形を作る、みたいなバンドなんです。時間もかかるし。だからこそやる意味がある、だからこそ音楽にずっと夢中なんだろうな、という思いを歌詞にしました」アルバムとしてもその「つまずいたり、踏んだり蹴ったり」こそが聴きどころだろう。例えば、藤原が29歳の誕生日にメロディと歌詞のベーシックを書いたというリード曲の「アポトーシス」では、大人の年齢に差しかかった彼の心情が繊細な描写でつづられる一方で、雄大な感覚を携えた歌とサウンドからは名実共にトップクラスのバンドとなった4人の新たな一歩が感じられる。また、ドラムの松浦匡希が作った素材を藤原と組んで発展させたという「フィラメント」では、“さあ来た道にまた戻るより 進むがいい”というフレーズがポジティブに響く。どちらも現在地に至るまでにさまざまな険しい道を乗り越えてきた者の歌といえる。そして、そんな叙情性がセンチメンタルな形で表れた曲が「Shower」。過去に住んでいた部屋や街を回想する歌詞と切ないメロディが心に染みる。「リアルにそんなことを思いながら最近暮らしてます、という歌です。昔住んでた街って、(電車や車などで)通ると、何であんなに懐かしいんですかね? (以前の部屋に)もう他の人が住んでたりして、じゃあどんな人が住んでるのかな?と思ったりして……」そんなふうに、ふと立ち止まり、自分の胸に手を当てながら、今の自分、新しい自分の道を行こうとする人間の心模様が映し出されたアルバム『Editorial』。それはおそらく、自らの音楽とファンへ真摯(しんし)に向き合う姿勢を貫きながら、来年で結成10周年を迎える彼らの姿そのものだろう。

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