

2019年末、CHVRCHESのリードシンガーのローレン・メイベリーは、グラスゴー出身の3人組である彼らがかつてバンド名として候補に挙げたリストを見つけた。「そこに“Screen Violence”って書いてあるのを見て、使えるかもしれないと思った」と、彼女はアルバムタイトルについてApple Musicに語る。「当時の私たちにとってはいくつもの意味があったから」。その言葉には彼らがずっと引かれてきたホラー映画の美学が要約されていただけでなく、当時のメイベリーは実際に「screen violence(スクリーン上の暴力)」を経験していたのだ。2018年のアルバム『Love Is Dead』のツアー中、彼女はネット上の見知らぬ人たちからほとんどひっきりなしに殺害予告を受けており、バンド活動のプラス面とマイナス面を天秤にかけるようになった。「『アンチの言うことなんか聞くな』ってみんなは言う。でも聞かないでいることと、誰かに殺されるかもしれないと心配することは別だから」と、彼女は言う。「このタイトルとコンセプトを思い付いたことですごくすっきりしたし、元気が出た気がする」
しかしパンデミックが世界中に広がり、あらゆることがスクリーン上に移行される中、このタイトルはさらに深い意味を帯びるようになった。このアルバム制作も例外ではなく、2020年に大半が2つの場所をはさんでのオンラインセッションで作られた。一方はメイベリーと2人目のメンバーでマルチプレイヤーのマーティン・ドハーティが拠点とするロサンゼルスであり、もう一方は3人目のメンバーのイアン・クックが住むグラスゴーだ。そうした環境の影響は、アルバムに恐怖や混乱、女性蔑視に加えて孤立感やホームシックというテーマをもたらし、背景にあるタイトなエレクトロポップのサウンドは、代わる代わるにさまざまな表情を見せている。例えば「Violent Delights」「Nightmares」では不穏な空気を、「California」では幻想的な雰囲気を、そしてグラスゴーへのラブレターのようなエンディングの「Better If You Don’t」では切ない思いというように。そんなヘビーなテーマに突き動かされたアルバムであるにもかかわらず、CHVRCHESはこれまで以上の手応えをサウンドに感じたという。「音楽を聴いてると、バンドにやる気がなくて、気が散ってるのが分かる時があるけど」と、ドハーティは言う。「このアルバムには僕たちの全てが注ぎ込まれた気がする。はっきりした理由から制作に苦労した時もあったし、自分たちを限界まで追い込まなきゃいけない時もあったけど、このバンドがうまくいってるときは、他の誰と一緒にいても感じられないようなロマンスやワクワク感があるんだ」。そんなCHVRCHESの4作目のアルバムをメンバーが1曲ずつ解説する。
Asking For A Friend
ローレン・メイベリー:この曲は重苦しいけど希望もある。すごく深みが感じられる曲だから、歌詞を仕上げるのに時間がかかった。間違った歌詞を付けたら全部台無しになったと思う。この曲はクールな第1章って感じがした。後悔や孤独感がテーマで、かなり繊細で生々しい。でもそれから、「それで、どうしてそんな気持ちになってるの?」って問い掛ける感じで、次の章では話を戻してその物語の続きが語られていくことになる。
He Said She Said
マーティン・ドハーティ:この曲のコードには永遠に続く緊張感があって、どんなに壮大になってもその緊張が解き放たれることはない。基盤になるドラムが緊迫しててかなりスローで、曲の半分のテンポになっていて、僕にはパニック発作みたいな感じがする。
メイベリー:こんなにアグレッシブなのは久しぶりってくらいのパーカッションが気に入って、それが歌詞に影響した。この曲に対するみんなの反応を見るのは面白い。私たちとしてはメッセージソングにするつもりじゃなかったから。
California
ドハーティ:ロサンゼルスに引っ越した人は誰でもカリフォルニアの曲を作るから、僕たちはそうしないように意識してた。でもロサンゼルスで行き詰まって、挫折して、すべての人生が無意味になって撤退せざるを得なくなるっていう、そんなダークな面を歌う人はいない。だからローレンがこの歌詞を見せてくれた時、そういう曲ができそうだって思った。サウンドと並べてみると、その意味がよく分かる。ロサンゼルスでの生活のいいところばかり歌ってしまったら、ひどい間違いになったと思う。
Violent Delights
ドハーティ:イアンとよく話すんだけど、The Prodigyの『Music for the Jilted Generation』はイギリスのエレクトロニックアルバムとしてすごく影響力のある作品だと思う。この曲は明らかにあのアルバムへのオマージュ。夜驚症のサウンドトラックみたいだと思った。それがインスピレーションになってもっとハードにしてみた。
メイベリー:初めはアルバムでシェイクスピアを引用するなんて大げさじゃないかと心配したけど、バズ・ラーマン監督の『ロミオ&ジュリエット』を観直して、「violent delights(激しい喜び)」というフレーズは本当に刺激的だと思った。人は病的なまでに、他人に降りかかる暴力に興味をそそられるものだと思う。バースの歌詞では私が実際に見た一連の悪夢を描いてる。ツアー中のホテルの部屋で、人が乱入しようとしてくる夢を見てしまって、目が覚めたらドアの前に大量の枕とかが積み上げてあったんだけど、そんなことした記憶がまったくなかった。潜在意識の中で家が燃えてるって聞こえてきて、逃げ出さずにいられない感じ。おかしくなってしまいそうだった。
How Not To Drown (feat. ロバート・スミス)
ドハーティ:僕は常に移動してる状態が苦手で、心のバランスを保つために曲作りが役立ってる。ある日のライブ会場にボロボロのピアノがあって、なんとなく弾き始めて、そこで生まれたコードをこの曲で使うことになった。僕たちがザ・キュアーの大ファンだってことを知ってたマネージャーが、内緒でゲストミュージシャンに呼ぼうとしてくれてサポートしてくれてた。そんな中、「ロバート・スミスからメールが来たんだけど、どうしたい?」って言うから、「曲をたくさん送ってみよう。究極の夢は、このアルバムで彼に歌ってもらうことだから」って言ったんだ。それからしばらくして、ハロウィーンの日に突然メールが来て、彼のボーカルが乗ったこの曲が送られてきたんだ。
メイベリー:私はヴァージニア・ウルフの本をたくさん読んできた。彼女は入水自殺していて、それってかなりダークなことだと思う。私の歌詞には水やそれにまつわるイメージが出てくるって話をみんなでよくするんだけど、その理由がやっと分かった。結局は何かに飲み込まれて溺れることのメタファーみたいな気がする。それでも私たちはこうして生きていて、ロバート・スミスがこの曲で歌ってくれてるんだから、最高よね。
Final Girl
メイベリー:このアルバムのリサーチのためにホラー映画をたくさん観た。ホラー映画に出てくる女性の体験には共感できるところがあって、例えばじっと見られたり、狙われたり、追い掛けられたりする感覚っていうのは、女性だからって理由で私自身よく恋愛で経験してきたことだと思う。
ドハーティ:ローレンがこのコーラスのアイデアを出してくれた時、「ねえ、もし(バンドを)辞めたいなら、辞めていいんだよ」って言ったんだ。だって歌詞でまさに「私は辞めて結婚するべきだ (I should quit and go get married)」って言ってるんだから。
Good Girls
メイベリー:男性のヒーローがひどいことをしたとして、ファンやリスナーや視聴者としてそれを受け入れるっていう考え方はおかしいんじゃないかって、何度も話し合ってきた。私は昔からずっと理解できずにいた。特定の意見を持つ人だと分かっていながら、その人の音楽に感情移入するのは難しいと思う。でも、そのことで悩んだり、折り合いの付け方を探そうとしたりして費やした時間やエネルギーについて考えてみて分かった。私たちが同じくらい時間をかけて、そういう言動の対象になってる人を心配することはないんだって。
Lullabies
ドハーティ:グラスゴー出身の僕たちにとって(スコットランドのバンド)ブルー・ナイルがどれほど重要な存在かを話し出したら、それだけでインタビューが終わってしまうかもしれない。彼らは本当にあの街のサウンドを体現していて、耳にすると一瞬で地元に連れて行かれる。ホームシックになってグラスゴーを恋しく思ってた時があって、そんなときにこういう、特にこの曲のストリングスみたいなサウンドが生まれてくるんだ。
Nightmares
メイベリー:これは今作で唯一恋愛がテーマになった曲。バースで恋愛について歌ってて、コーラスでは恋愛がテーマの曲を書くことにイライラしてる自分について歌ってる。そんなひどい悪循環にはまってる感じ。
イアン・クック:この曲の終わりには語りのパートがある。僕たちがもう何年もこのバンドでオマージュをささげようとしてきた曲に、ケイト・ブッシュの「Waking the Witch」がある。ゾッとするようなグルーヴがカットインしてきて、切り刻まれた、取り乱した感じの語りが入るっていうのは、昔からずっと刺激的なやり方だった。僕たちもいつかそれをやってみたいと思ってきたんだ。
Better If You Don’t
ドハーティ:ミュージシャンとしての自分たちの血統へのラブレターみたいな曲。僕たちがグラスゴーにいて、まだCHVRCHESにもなっていないころはどんなサウンドだっただろう? 火曜日の午前11時のグラスゴーで、あまりの大雨に逃げ出したくなるんだけど、それでもどういうわけか地元が大好きだっていう気持ちをサウンドで表すとしたら? 実はこの曲を書いたのはロサンゼルスで珍しく雨が降ってた日で、僕は昔を思い出しながら、ただ雨を眺めて歌ってた。
メイベリー:家でも場所でも時間でも、戻れないと分かると悲しくなる。この曲のイメージは、22歳のころ雨のグラスゴーで夜遊びしてた時の感じ。だけど、もうそこには戻れない。文字通りもう存在しないわけだから。ネットで「時が過ぎ去って悲しい」って検索してみたら、みんな言うことは同じで、「誰にでもあること。忘れなよ!」だって。