マックス・リヒターの『Exiles』は、戦禍を逃れて世界をさまよう人々の姿と、彼らの苦難を描いた心を揺さぶる作品だ。33分に及ぶアルバムのタイトル曲は、シリアの内戦による人道的危機を受けて書かれたもの。序盤から中盤にかけては反復されるシンプルで切ない旋律を軸に少しずつ楽器が加えられ、揺れるような音世界が展開されていく。終盤に入ると一歩一歩しっかりと踏みしめるようなベースラインが現われ、やがて喜びを爆発させるクライマックスへと向かう。そして最後には静けさとともに幕を閉じる。クリスチャン・ヤルヴィが指揮するバルト海フィルハーモニックによるスケール感あふれるパフォーマンスも素晴らしい。本作に収録された他の5曲の演奏も彼らの手によるもので、これらはすべてリヒターの代表作のオーケストラアレンジによるニューバージョンとなっている。その中で、2008年の映画『Waltz With Bashir』(1982年のレバノン内戦を題材にしたアニメーション・ドキュメンタリー)のためにリヒターが書き、高評価を受けたサウンドトラックからの楽曲「The Haunted Ocean」は、新たに施された豊潤な響きのオーケストレーションとともに不穏な雰囲気を漂わせている。また、リヒター作品の中で最も有名な2003年に勃発したイラク戦争の犠牲者への哀悼の意を捧げた「On the Nature of Daylight」(セカンドアルバム『The Blue Notebooks』に収録)は、大編成の弦楽オーケストラによる演奏で、感動を呼ぶ楽曲として新たな命を授けられている。
バルト海フィルハーモニックのその他の作品
- トーマス・エンコ & Vassilena Serafimova
- タンギー・ド・ヴィリアンクール & テオティム・ラングロワ・ド・スワルテ
- クリングツォイク・バロックアンサンブル
- ニール・カウリー
- マックス・リヒター