FanMail

TLC
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1990年代におけるガールズグループの革新的な存在といえば、明確に断定することは難しいが、1994年にアイコニックなアルバム『CrazySexyCool』をリリースし、半ばリリースをあきらめかけていた1999年に次作を発表したTLCだろう。この、長く待たれた5年の間には、レーベルとの騒動や、破産問題、そして内輪での争いなどが絶えず発生していた(レフト・アイが彼氏であるフットボールプレイヤー、アンドレ・ライゾンの家を全焼させてしまい、更生施設に入所したあの有名な事件も含まれる)。しかし、彼女たち3人は、TLCらしい大胆なファッションに身を包み、そんな状況にも屈しなかった。その結果、1999年にリリースされた『Fanmail』はR&B史における最もタイムレスなエンパワメント・アンセムを生み出し、先見性の高いフューチャリスティックなサウンドを提示したのだった。Vic-Eと名づけられたアンドロイドによるロボット的なナレーションは、新たなミレニアムに突入する時代にふさわしいイントロダクションとなった。インターネットはまだダイヤルアップ回線で、映画『マトリックス』が人気を博し、ミレニアムバグとも呼ばれたY2K問題が世間を騒がせていた時代である。当時、インターネットは人と人とを前代未聞の方法でつないでいった。“孤独だけれど、みんな一緒にいる”という全く新しいやり方で。しかしTLCの3人は、ワールドワイドウェブという名の荒野では、物事はそんなに簡単には進まないということを知っていた。表題曲で、T-ボズは“あなたと同じように、私も孤独を感じている”と、リスナーたちを安心させるかのように歌ってみせる。まるで、予期せぬEメールから、感情を読み取ろうとするように(確かに1999年、同意を表す“big moods”というネットスラングはすでに存在していた)。しかし、『Fanmail』で表現されているレトロフューチャリズムは、今もなお共鳴できるものばかりだ。「No Scrubs」で歌われている、“親友の車の助手席に乗って出かける男”以上に長く愛されるパンチラインはあるだろうか。3人が優しくも冷酷に歌う「Unpretty」は、社会が定める美しさの基準について正面から向き合った一曲だが、それはそのまま、SNSが時代を席巻する現在においても盛んに議論されているトピックといえる。こうした点は、TLCが人を引きつけてやまない魅力の一つでもある。すなわち、彼女たちはいつも自立性と自信について歌い、リスナーに対して絶対にうそはつかなかったのだ。TLCの鋭い洞察力をもってしても、当時、『Fanmail』がT-ボズ、レフト・アイ、そしてチリの3人がそろってレコーディングした最後のアルバムになろうとは予想できなかったはずだ。その3年後、ホンジュラスで不慮の交通事故による悲劇が起こり、当時30歳だったレフト・アイの命を奪うことになろうとは。しかし、彼女のスピリットは音楽を通じて輝き続ける。そして、「この孤独な世界で、私たちはつながる必要がある」という、『Fanmail』で歌われたメッセージが、これまで以上に真実味をもって鳴り響くのだ。

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