

「国内と海外、僕らはどちらの音楽シーンに向けてかじを切るのか。このアルバムはたぶん、その中間を意識してできた」。indigo la Endの川谷絵音(Vo/G)は、8作目のフルアルバム『MOLTING AND DANCING』についてApple Musicに語る。本作に収録された楽曲の中で、最も早い段階で作られた楽曲が「哀愁東京」だった。この曲は2023年リリースの前作『哀愁演劇』でコラボレーションした韓国のラッパー、pH-1と共演する候補曲だったと川谷は明かす。「海外の人と初めてコラボレーションするとなった時、東京をテーマにしたいと思いました。僕自身、東京で過ごした時間が地元と同じくらいになり、東京について書くことがいっぱいたまって、それが自然と出てくるようになった」。ネットを通じて世界中の人とつながれる現代の環境は、アーティストたちに無限の可能性をもたらした。そしてひとたび目線を海外に向けて刺激を受けると、普段見慣れた風景も一変し、ドラマチックに映り始める。「哀愁東京」はまさにその感覚を味わわせてくれる楽曲であり、日常をドラマに変えるバンド、indigo la Endの真価が発揮されている。 本作のコンセプトは「全曲異なるBPMにすること」だったと川谷は言う。「弾き語りをベースにするとBPMは120から135くらいになることが多いけど、そこから逃れたかった。一番遅くてBPM67、速いのだと188と、幅広いテンポを取り入れています」。バンドサウンドの要となるのはギターであり、今回ギター担当の長田カーティスにも心境の変化があった。「言葉で表現するのは難しいんですけど、以前の自分のプレイは“直線的”だった気がする。ここ数年そのことが少し気に入らなくて、もっとフレーズに意味を持たせようとか、そういうことをすごく意識してアレンジするようになりました」。その言葉に川谷も「今回長田くんは、昔は弾かなかったような、いなたいソロやカッティングもやっていて、幅が広がった」とうなずく。 タイトルは“脱皮して、躍動する”という意味を持ち「変化や成長を経て、新しい段階に進んだ喜びを表した」と川谷は説明する。バンドの着実な進化が刻まれた本作について、ここからは川谷と長田にいくつかの楽曲を解説してもらおう。 ナハト 川谷絵音:アルバム制作の終盤に、全体のバランスを取るためにBPMを速く設定して作った楽曲。別の曲を1曲目に考えていたけど、こっちの方がオープニングの開けた感じが出るかなと思って1曲目にしました。 夜凪 (feat. にしな) 川谷:デュエットの古典的な手法として、オクターブを変えて歌おうと思って、そのためには女性ボーカルが必要だと感じ、初の女性ゲストを迎えました。 雨が踊るから 川谷:Bメロで長田くんのギターが入った時、バンドマジックを感じました。ゲスの極み乙女の休日課長がいつもプリプロのエンジニアをやってくれるんですけど、これを聴いた課長が「めっちゃいいじゃん」と言ってて、僕も本当にそう思った。エフェクティブな音を多く入れているので、空間オーディオで聴いてもらうとより楽しめるんじゃないかな。 哀愁東京 川谷:「Oの歌みたいに」の「O」は、岡村靖幸さんのことです。初めに曲名を決めて、そこから歌詞を書こうとした時に、東京を教えてくれた先輩である岡村さんが浮かびました。岡村さんによく連れて行ってもらった西麻布の、朝に帰る時の景色が僕の中にあって、それがワーっと歌詞になったという感じです。 ラムネ 川谷:ストリングスはいつも徳澤青弦さんのチームにお願いしています。イントロのヴァイオリンは、シンセサイザーで作ったものを第1ヴァイオリンの藤堂昌彦さんに弾いていただきました。藤堂さんは、さだまさしさんのサポートなどもされている素晴らしいヴァイオリニストです。 長田カーティス:「ストリングスを入れる」と言われると、僕のギターに熱が入る傾向があるかもしれない(笑)。歌に入るまではギターリフが主役だと思っているので、ずっと楽曲の中心にいられるいいリフを作りたいと努力しています。 FEVER 長田:後半のギターソロは「とりあえず長く弾いて」と言われ、結果的にどんどん長くなりました。僕は基本的にこういうソロを弾くのが苦手だったので、リファレンスとしてカシオペアの野呂一生さんのギターをすごく聴いて、フュージョン的なイメージで弾きました。 盲目だった 川谷:シューゲイザーポップみたいなのを作ろうと言って始めた曲。コード進行がめちゃくちゃシンプルで、ほぼ四つしか出てこない。最近の僕らは曲の長さを結構意識して作ってたんですけど、この曲はそれを気にせずシンプルにやろうと。僕らが初期の頃にやっていたことを、今の形でアップデートしたものを目指しました。 長田:僕のギターは、MarshallのShredmasterだけを使っています。レディオヘッドを聴いて育ったので、あの音を出すならこれしか使わないと決めています。