MK 3.5: Die Cuts City Planning

MK 3.5: Die Cuts  City Planning

「最初は、お互いがバンドを離れて個人的に作っていたものをいくつか持ち寄るつもりだった」と、Mount KimbieのDom Makerは4作目のアルバム『MK 3.5: Die Cuts City Planning』についてApple Musicに語る。「それがいざ曲を並べているうちに、『ちょっと待てよ、アルバムが二つできるんじゃないか』と思ったんだ」。 ロンドンで結成された2人組は、これまでとは全く違うアプローチでこのアルバムを制作した。Makerはロサンゼルス、Kai Camposはロンドンを拠点にしており、2人はすでに離ればなれだったが、パンデミックに伴う諸事情により一人で音楽制作をすることが増えていった。Makerはダニー・ブラウンやスロウタイ、ジェイムス・ブレイクといったアーティストとのコラボレーションでラップやR&B色の濃いビートを繰り出す一方、Camposは次第にDJ活動や1990年代後期~2000年代初期のデトロイトテクノに傾倒していった。そうして完成したのが、対照的でありながら補完し合う2作のソロアルバムだ。コラボレーション満載の『Die Cuts』は、スイートなラップ、R&B、エレクトロニカがじわじわと融合する作品。かたやテクノ主導の『City Planning』は、荒廃した架空の街の中心地へ向かい、戻ってくるまでの破天荒な旅を描いている。ではさっそく2人に、『MK 3.5: Die Cuts City Planning』の聴きどころとなる楽曲を案内してもらおう。 Dvd (feat. Choker) Dom Maker(以下DM):Beyoncéからフランク・オーシャン、Earl Sweatshirtまで、大勢のアーティストを手掛けたプロデューサーのMichael Uzowuruとレコーディングしていた時、彼がChokerを連れてきた。僕も当時は知らなかったけど、実験的なポップ、とでもいうような音楽を作るアーティストだ。Michaelがその日僕が取り組んでいたアイデアの一つをピックアップして、その上にChokerのボーカルを重ねた。その後、Duval Timothyがサンファとのセッションをボイスメモで送ってくれた。ピアノになんとなく声を乗せたものだったけど、それをサンプリングして重ね、中盤のメロディの転換に使った。そこからアルバムの方向性ががっちり固まったよ。 In Your Eyes (feat. slowthai & Danny Brown) DM:あれはスロウタイがロサンゼルスで2作目『TYRON』の仕上げに取りかかっていたころで、ジェイムス(・ブレイク)を交えて3人で「feel away」を作った。その翌日の午後に、彼が作ったのがこの曲のバースだ。最初に彼が乗せたビートは、後から別のものに入れ替えた。今回のアルバムではそういうケースが多いんだ。元々はアメリカのジャズシンガー、ブロッサム・ディアリーの「In Your Eyes」をサンプリングしていたんだけど、あいにく著作権がクリアできなくてね。スロウタイとダニー・ブラウンの顔合わせはまさに夢の共演だ。冒頭はタイのバースで嵐のごとく幕を開ける。ちょっぴりダークで、不気味な感じ。その後中盤では雲が晴れ、ビートもテンポアップする。終盤ではダニーのバースが全く違う雰囲気を醸し出している。 Heat On, Lips On DM:アルバムの中で唯一、誰ともコラボレーションせずに単独で作った曲。無料サンプル集のサイトから拾った音で、別々に作った二つのビートがベースになっている。サンプリングはジャズ風の曲から引っ張ってきた。それからストリートで活動する詩人Hollie Poetryの存在を知って、彼女の詩の朗読から単語を抜き出し、並べ替えて独自の文章を作った。アルバムの他の曲と比べると、ボーカル色は強くない。アーティストとコラボレーションして作るのも好きだけど、完全に自分の表現で作ったこの曲も気に入っている。 Say That (feat. Nomi) DM:これは愛のバラードと言っていいと思う。アルバムの中でも個人的に一番のお気に入りかな。Nomiはテキサス州ヒューストンで活動する、まだあまり知られていないけど素晴らしいボーカリストだ。彼女にとってはこれが初リリース作品になる。ここではソウルをサンプリングしているけど、ASMR(自律感覚絶頂反応。低い話し声やささやきを聴くと、ぞくぞくする感覚に襲われること。またはそうした音源や画像のこと)もいくつかサンプリングした。女の子が“愛してる”というようなことを言ったり、耳元で甘い言葉をささやいたりね。炎がパチパチという音も、サンプリングとして薄くミックスしている。 If and When (feat. Wiki) DM:Wikiは大好きなラッパーの一人。しばらく一緒にツアーしていたこともある。このアルバムでは真っ先に彼に参加してもらいたいと思っていた。最初に彼が通しでレコーディングしたものを送ってくれて、その後僕が長い時間をかけてビートを作り直し、友人のChris Trowbridgeに頼んでベースを演奏してもらった。この曲に込めたWikiのメッセージがすごく気に入っている。もっと健康であろうとする彼の苦しみが描かれていて、僕も共感できるからね。 Q Kai Campos(以下KC):「Q」では作品の世界観がとてもうまく表現されている。当時の僕は、90年代後期のデトロイトテクノやエレクトロで多用されていた機材に夢中だった。この曲やアルバムの中でも前面に押し出しているローランドTR-606は、あの当時を代表するドラムマシンだ。ものすごく金属的な音がして、近未来的な雰囲気を出してくれる。アルバムの序盤では土臭さや荒れた感じを出したかったんだけど、おかげで見事に表現できた。 Transit Map (Flattened) KC:「Transit Map」はAndrea Balency-Béarnとのコラボレーション。彼女は僕らのライブステージには欠かせない存在で、映画やテレビの作曲家としても優秀な人だ。彼女が即興で書いた長尺のピアノ曲から、一部を拝借した。すごく不思議なアルペジオだ。彼女は僕が再現できるようにとMIDI形式で送ってくれたんだけど、逆にMIDIの粗っぽさが気に入って、そのまま採用した。 Satellite 9 KC:今回は頭の中でアルバムを複数の場面に分け、街の郊外から中心地へ向かって戻ってくるまでの旅を想像した。「Satellite 9」は街へ向かう列車の旅のような感じだね。アルバムに流れるデトロイトテクノの影響やローランドTR-606の近未来的な雰囲気が、ここでもうまく生かされている。 Zone 1 (24 Hours) KC:僕の中では、この曲がアルバムのピークに当たる。他よりすこし長尺で、ややクラブっぽい。作り始めた時は全く違う曲で、ボツにする寸前だったんだけど、ミックスしたり大胆に編集したりしているうちに、別のアイデアが浮かんできてね。生演奏しながら、ミックスとレコーディングを同時にやった。すごく直感的に出来上がった曲だよ。 Human Voices KC:僕はこのアルバムを旅として捉えている。音的にも、比喩的にもね。だから締めの曲では、よりナチュラルな方向に戻した。長いことアルバムの制作に取り組んできたけど、実際のところ、収録曲はどれもレコーディングの終盤にぱぱっと短時間で仕上がった。この曲もそうした曲の一つで、最初に気に入っていたものをミックスしたり演奏したりしているうちに、本当に満足できるものが出来上がった。

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