Let The Bad Times Roll (Deluxe Edition)

Let The Bad Times Roll (Deluxe Edition)

紛れもなくThe Offspringのサウンドだ。1980年代に南カリフォルニアのハードコアシーンから現れて以来、The Offspringはメロディアスなパンクサウンドと、リードボーカルを務めるデクスター・ホーランドの伸びやかなハイトーンボイスで、同時代のバンドとは一線を画してきた。辛辣(しんらつ)で、横柄で、嘲笑的な彼の歌声は、分厚いリフに威勢のいいドラム、ヘヴィなシンバルが鳴り響く、ハードでスピード感あふれるラウドなサウンドを完璧に引き立てる。37年のキャリアで、彼らの楽曲が持つ緊迫感は決して揺らぐことなく、トランプ主義の存在でますます勢いが増している。そこへ登場したのが、The Offspringのフルアルバムとしては9年ぶりとなる通算10作目の『Let The Bad Times Roll』だ。「俺たちは政治的なバンドだとは思わないが、ここ数年の出来事を語らずにアルバムを作るなんて無理だろ?」と、デクスター・ホーランドはApple Musicに語る。「俺たちの上に立つ連中は世界の問題を解決する気がないどころか、あおりたがる。ひどい時代は今も続いている」だがバンド独自のユーモアのセンスで、あからさまな説教臭さは感じられない。トランペットやクラリネット、サキソフォンがスウィングする「We Never Have Sex Anymore」から、The Offspringの過去の名曲「Gone Away」のピアノバラードバージョン、そして1875年のオーケストラ作品のパンクカバーまで。「どの曲も、心の病とか依存症とか世界情勢とか、さまざまな社会問題をテーマにしている」と、ホーランドは言う。「でも不満を言うだけじゃだめ。このアルバムのメッセージは希望なんだ」。 史上最も売れたパンクバンドらしい名言だ。以下、ホーランドがアルバムを全曲解説する。This Is Not Utopia「Shit is fucked up」って歌詞があったけど、あんなのどうってことない。こいつを聴いてくれ! 俺にはこの曲が去年の夏に起きた暴動について歌っているようにも聞こえるけど、実際に完成したのは4月だから、それより前の曲。予測していたわけじゃないけど、こういうことがふつふつと湧き起こっているという感覚はあった。爆発寸前だった。人々は抑制され、それを感じて、逆襲しているんだ。Let The Bad Times Roll「Trump Is a Shithead」というタイトルにしてもよかったんだけど、それじゃあまりに短絡的過ぎるだろ。今はそれ以上の状況が起きている。ここまで来てしまったのはあまりにも残念だ。俺にとって「Machiavellian flow(マキャべリ流)」って歌詞は、権力の座に就くためにあることないこと言って、力を手にした途端ひどい目に遭わせるような指導者のこと。最初は「どうぞ皆さん、私をごひいきに」って言ってたのが、今度は「ふざけるな、自分で何とかしろ」ってなるんだよ。バースの部分はロックしててかなりヘヴィだけど、軽快なコーラスがそれに続いてる。音楽的に対処するお決まりの仕組みのようにね。Behind Your Wallsこの数年でバンド仲間を何人か亡くした。彼らとまた話をして「一体何に悩んでたんだ? 投げ出したくなるほどどんなつらい経験をしたのか教えてくれよ」って言えたらいいのに。俺の仲のいい友達は、息子が自殺した。そいつはもう死んでしまったけど、この曲を見て突然「ああ、あいつのために書いたみたいな曲だ」と思った。子どものころ、俺はこういうダークなテーマに引かれていろんなバンドを好きになった。つまり、パンクは鬱(うつ)状態をテーマにするのを恐れなかったってこと。むしろ助けになったよ。Army Of Oneこれはスーパーヒーローソング。だよな? 「世界は最悪で、すべてが敵になったような状況だけど、俺は全身で力の限り走って壁を突き破り、乗り越えてみせる」。つらいときこそ本気と底力を出して、自信をもってやり遂げるんだ。Breaking These Bonesここ数年で、個人的に悲しい別れも何度かあった。本当に落ち込んだときは誰もがひたすら部屋にこもりたくなる。カーテンを閉め切って、暗闇の中でベッドに横たわっていたくなる。そうすると悲しみが物理的に感じられてくるんだ。文字通り押しつぶされそうになって、骨が砕けそうになる。大半の若い子はこの曲を聴いて、「モッシュするのにいい曲だな」って思うだろうな。それも結構。結局のところ、俺はみんなを楽しませたいわけだから。もちろん歌詞をもっと掘り下げたければ、そこには何らかの意味がある。でも必ず読み取らなきゃいけないわけでもない。Coming For You2015年にこの曲を書いたのは、周りから「わざわざアルバムを作ってどうする? どうせみんなシングルしか聴かないのに。シングルで出せばいいだろう?」って言われるようになった時期だった。俺はこの曲が気に入っててね。ラジオでもよく流れた。でも正式にリリースされたことはなかったと思う。それが物足りなかったんだ。それで、その後は一切曲を出さずに、とにかくアルバムを完成させることに決めた。やっぱりこの曲は他の曲と一緒にアルバムに入っているのがしっくりくる気がしたんだ。We Never Have Sex Anymoreこの曲は、しばらくはギターだけで演奏していたんだけど、そこにピアノを足してみた。俺に言わせればスウィングソングだ。終盤のクラリネットとか、クレイジーなものを入れたりして、音楽的にすごく楽しんで作れた。どこからともなく突然ぱっとひらめいた。俺たちはどのアルバムでも、予想しないような変化球にトライしている。パンクじゃないってところがパンクなのかもな。In The Hall Of the Mountain Kingこれは60秒の曲。エドヴァルド・グリーグ作曲のクラシック曲を、文字通りパンク調にしてみた。ぶっ壊れるまでどんどんテンポを上げていった。この曲にはいくつか微調整が必要だったから、俺たちが正してやったってわけ。見てろよモーツァルト、次はおまえの番だ。The Opioid Diariesタイトル通り、この曲は依存症がテーマ。新しい話題でもなんでもないが、俺がこの曲を書きたかったのは、今のアメリカでは独特の問題が起きているような気がしたから。それは言うまでもなくオピオイドだ。普通なら依存症になりそうもない人たちが、依存症になっている。けがをしたアメフト選手だったり、腰を痛めて鎮痛剤が必要な肉体労働者だったり。依存性が高いなんて知らずに処方してもらった薬だから、彼らに罪はない。悪いのは完全に製薬会社だ。やつらはこの薬の依存性を知っていた。この薬を服用し始めた患者が、そのうち処方箋をもらえなくなったり買う金がなくなったりして、気付いたらヘロインをやるようになっている。そしてヘロインの過剰摂取で死んでいくんだ。こういう偶発的な依存症の例が次々と出ている。Hassan Chop「歌詞を読むまで、君たちの音楽はハッピーなものだと思っていた」って誰かに言われたことがあるけど、それが俺たちのやり方なんだと思う。中東情勢、特にISISについて、あそこがどんなに悲惨なことになっているのか、というテーマの曲を書きたかった。斬首刑のことだよ。そのことを考えると昔のバッグス・バニーのアニメを思い出す。『アリババ・バニー』で、男が「Hassan Chop」って言いながら走り回るところがあって、そこからタイトルを取ったんだ。もはや50代の人間しか知らないだろうけど、最高のアニメだった。この曲では、現地がどんなにひどい状態かを、非難するんじゃなくて、聖戦が今も続いているという現状として表現している。つまり、数千年前からずっと同じことを続けているんだ。「俺の神が正しくて、おまえの神は間違っている。だからおまえを殺してやる」ってね。Gone Away「Gone Away」は、『Ixnay on the Hombre』(1996年のアルバム)のために書いた曲。ライブではかなり前から演奏していたけど、セットリストにちょっとしたブレイクになるような曲を入れたくなったんだ。ライブ中に一息つける、ピアノとボーカルだけの曲をね。それでこのバージョンをやってみたら、すぐにオーディエンスがライターの火を掲げて応えてくれた。SNSで「あの曲のピアノバージョンはどこで手に入るの?」ってメッセージが来て、それでアルバムに入れることにしたんだ。レコーディングするのは変な感じだったよ。自分のボーカルの粗さをラウドなギターで隠すのに慣れているから、すごく無防備な感じがして居心地が悪かった。スタジオでそれを克服するのには少し時間がかかったよ。Lullaby「Lullaby」はアルバムを締めくくる曲で、ひどい時代も流れに任せよう、という今作のメッセージをあらためて思い出させてくれる。アルバムで取り上げている話題はすべて、このひどい時代を包括する大きなテーマの枝葉の部分なんだ。「Lullaby」は…蓄音機を聴いているようなイメージ。レコードの真ん中の最後の部分が、何度も繰り返される感じ。ちょっと演劇的だろ。

国または地域を選択

アフリカ、中東、インド

アジア太平洋

ヨーロッパ

ラテンアメリカ、カリブ海地域

米国およびカナダ