

「僕らは登山家みたいなもんだよ」。さだまさしはソロ通算46作目となるアルバム『神さまの言うとおり』についてApple Musicに語る。1973年にフォークユニット、グレープのメンバーとしてデビューして以来、50年以上にわたって音楽活動を続けてきた彼は、時代を超えて愛される楽曲を数多く生み出してきた。コンサート回数は4,700回を超え、日本最多となる累計公演数の記録を更新し続けている。 「今の時代に機械なしで音楽制作することはできなくて、クリックを聴きながら演奏するようなことは僕らもやってる。ただ、そこでどう音楽を構成し、どんな表情をつけるかは、やっぱり人間の技にかかってる。例えばビートルズの完成度の高さは、今聴いても驚くほど。僕らはあの高みを目指して音楽をやってきたから、なかなかたどり着けなくてイライラしちゃうくらいなんだ」 常に高みを目指す思いが、さだを長年音楽へと向かわせてきた。その情熱は途切れることなく、今回のアルバムも、前作『生命の樹~Tree of Life~』から1年という、ベテランとしては驚異的なスパンで制作された。「僕の考える高みっていうのは、自己ベストではなくて、アベレージなんです。自分の理想とする高みでずっとやりたいし、その高みはどんどん上へ伸びていかないと駄目。その高みを上げ続けるのが、僕らの一番大切な仕事だと思う」 さだは、その高みを一人で目指しているわけではない。信頼できるプロデューサーや演奏家がいて、新しい音楽を待ち望む大勢のファンもいる。演奏陣には弦楽隊やホーン隊までそろい、小さなオーケストラのような規模になった。ライブも大所帯で行うため負担は大きいが、それでも続けられるのは、これだけの編成を維持できるほど多くの観客が足を運んでくれるからだ。「僕は本当に恵まれてる」と、彼は言う。「いつもギリギリだけどなんとか回せるから『やっちゃえ』って、そのパワーをお客さんからもらってる。プロの音楽家である以上、山の頂を目指す責任があるし、まだ発見されてない山もいっぱいある。その頂へ、仲間やお客さんを含むチームで登っていく感じです」。ここからは、本人にいくつかの楽曲について語ってもらおう。 イップス~yips~ ある程度の年齢、それこそ40歳を過ぎると、少しずつパフォーマンスのグレードは下がってくる。だからといって「維持するためにどれだけ努力してます」なんてことを伝えたいわけじゃなくて、お客さんにはおいしいところだけ食べてほしい。だからこの曲で言い切ったのは、「老化じゃない」ってこと。今日ちょっと調子悪いなって時に、「あれ、歳取って駄目になっちゃったかな」じゃなくて、「スランプかも」って言っちゃうの。その方が自分の慰めになるから。時々、プロとは何だろうって思うよ。前と一緒じゃ駄目で、前より良くならないといけないから、結構大変なんだ。いくらでも道具を使えばすごいセットは作れるけど、伝えたいのはパフォーマンス。さだがそこで何を歌ったか、どう歌ったか、何をしゃべったか。それにフォーカスしていきたい。僕が(パフォーマンスを)下げるわけにいかないっていう恐怖感は常にある。 木蓮の庭(グレープ) 吉田政美との関係は、グレープを結成した当時から少しも変わらない。曲作りは主に僕が担当して、僕が作ったものを吉田がジャッジする。吉田が「何か違うな」って言えばそれはボツ、「いいんじゃない」って言えば採用。だから僕の歌を聴いて吉田が「ちょっといいね」と言うと、スタッフが向こうで「1曲できたぞ!」って万歳するんだよ。吉田は詞にうるさいから、ギャフンと言わせたいというプレッシャーは常にある。だから僕は詞もメロディも、最後の最後、歌入れのOKテイクが出るまで直していく。吉田が「もう十分だよ」と言うところまで、あうんの呼吸で判断を委ねられる。僕にとって重要なプロデューサーの一人です。 神さまの言うとおり 映画『お終活3 幸春!人生メモリーズ』の主題歌として書いた曲。最初の映像では監督が僕の「奇跡~大きな愛のように~」を使っていて、「こんな曲書いてください」って言われたけど、あんな大きなバラードは簡単には書けない。何度も映像を見せてもらって、「もうちょっと明るい方がいいな」と思っていたら、1930、40年代にフランク・シナトラが歌ってたビッグバンド、トミー・ドーシーとか、あのへんの音が聞こえてくる気がした。『お終活』は、人生の最後の頃をどう楽しむかっていう映画。そこで、昭和の子どもが何かを選ぶ時によくやった「天の神さまの言うとおり」という言葉が浮かんだの。天の神さまっていうのは太陽のことで、そのおおらかな神さまを思い描いて、「よし、4ビートでいこう」って思った瞬間に、パッと1日で曲ができちゃった。それでアレンジャーの渡辺俊幸くんに「トミー・ドーシーをバックに歌いたい」と言ったら、「分かった分かった」って。僕は今回のアルバムで今まで使ったことのない引き出しをいっぱい使ってるんだけど、渡辺くんは50年一緒にやってきてるから、すぐに全部理解してくれるんだ。