「ライブでお客さんに会えるという事実に自分がどれだけ救われ、エネルギーをもらってきたかを改めて強く認識した5年間でした」。BUMP OF CHICKENの藤原 基央(Vo/G)は、前作『aurora arc』から5年ぶりとなる本作の制作過程を振り返り、Apple Musicに語る。新型コロナウイルス感染拡大の影響でライブができない苦しい日々から日常が徐々に戻ってきた2022年より精力的にライブ活動を再開し、ツアーの合間を縫うようにしてアルバム制作に向かった。「ライブでお客さんを目の当たりにして感じたことが、歌詞とサウンドにたくさん反映されている」と藤原は言う。「ライブをやっていると、今はお客さんとこんなに素晴らしい時間を共有しているのに、これが終わったら僕はもう、この人が明日、明後日と生きて描く物語に付いて行くことができないんだなと思う。それはすごく切なくて、いまだに置きどころのない気持ちとして存在している。そういう思いから多くの曲が生まれました」 タイトルの『Iris』は“虹彩”を意味する言葉で、眼球の色が付いている部分を指す。その言葉にフォーカスした理由には、「窓の中から」という楽曲が関係していると藤原は説明する。「この曲は、僕らとリスナーのつながりの根底にあるものを書いています。僕は昔から、自分の本質は心の中にあり、その心の窓から世界を見ているという感覚がある。僕はその窓から世の中に向けて歌を放り投げ、それを誰かが見つけてくれた。僕らは心の窓ごしに、自分の目で見つけ合った同士なんだと思う」。だからこそ彼は、音楽を通して出会えたリスナーの一人一人に深い感謝を抱き、その存在を強く感じながら音楽を作っている。「すべての曲に恥ずかしいくらいの熱量があるから、引かれないといいんだけど」と照れくさそうに笑う藤原に、ここからはいくつかの楽曲を解説してもらおう。 Sleep Walking Orchestra 曲自体が「自分を1曲目にしなさいよ」と主張するような感覚があり、1曲目にしました。イントロのアレンジは分厚い児童文学の本がパカッと開くようなイメージで作り、さらにドラマチックにするためにサビの歌パートを冒頭に加えました。 青の朔日 “朔日”にはいろんな意味がありますが、ここでは“新月”を意味しています。2023年のツアーの終わりごろに作ったので、ライブで感じたことを赤裸々に伝えています。サウンドは自分たちがバンドを組んだ時期である1990年代のオルタナやエモの影響を強く出しつつ、今の自分たちなりに現代的な解釈ができたかな。「俺らはこういうのがとことん好きだよね」と感じながら楽しくレコーディングしました。 strawberry 物理的な近さを感じられるような、生活感のある音を入れたくて、床がきしむ音をサンプリングして入れました。もともとは自分の家で鳴る床のきしみを入れようと思っていて、iPhoneで何パターンも録音したんだけど、それをスタジオで聴いたらどうにも情けない音で(笑)。「これ使えないじゃん、マジかよ」と思ってのけ反った時に、座っていた椅子がいい感じでギシッと鳴って、「あ、この音だ」と思ってマイクを持ってきて録りました。なぜこの音が必要だったのかはうまく説明できないけど、直感的なひらめきがあった。そういうひらめきって、どんな理屈よりも勝ることがあります。 窓の中から 1,000人の18歳世代と一緒に歌う曲として作ったので、初めから合唱パートのアレンジを意識し、わりと特殊な作り方をしています。デモテープの段階で、混成四部のコーラス全パートを自分で歌って入れていました。18歳の皆さんにとって、心の杖のような役割を果たせる曲にしたかった。ちょっとやそっとで折れるような杖じゃ駄目。自分のミュージシャンとしてのキャリア、そして40年以上生きてきた人間としてのキャリアを全部込めて、自分なりに最強の一本をお渡ししたいという思いで作りました。 木漏れ日と一緒に ずっと全力で走り続けてきて、ちょっと休憩したらそのまま一歩も動けなくなってしまったという経験を基に書いた曲。まだまだ走りたいのに、どうしよう、動けない…そういう時に人は「はあ」と深いため息をつく。そのため息が、この曲です。これが曲になった以上、遠い空の下、どこかで聴いてくれる人がいるかもしれない。その人と僕はライブをやらないと会えないんだと思ったら、もう一度立ち上がることができた。だからこの曲のことを考えると、自然とリスナーへの感謝が湧いてきます。 アカシア 2019年のツアーを終えてすぐに着手した曲。僕が「Oh, yeah」と言ったらお客さんは「Yeah」と返してくれるかな、とライブを想像しながら作りましたが、その後コロナ禍になってしまい、なかなかライブで披露できなかった。最初に披露した時はまだお客さん側は声を出せない時期で、「Yeah」は返ってこなかったけど、それでもすごいエネルギーを感じました。その次のツアーでマスクをしながら声出しができるようになり、そこでようやくお客さんからの「Yeah」を聴けて、その時はもう言葉で言い表せないくらいの感動がありました。ずっと飲まず食わずで走ってきた砂漠の真ん中で、ようやく水をもらえたような。ステージに立つ人間にとって、お客さんの声とはそういうものです。
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