Insomnia

Insomnia

「僕、眠れないんですよ。寝つきがとても悪くて」。清水 翔太は“不眠症”を意味するタイトルを冠したアルバム『Insomnia』について、Apple Musicに語る。「何もない日は眠れたりするけど、ライブ前とか、寝ないといけないときに眠れなくて本当につらいんです」と彼は続ける。「ただ、もし自分が不眠症でなければ、音楽を作っていただろうかとも思う。眠れないから少しだけピアノ弾こうかな、という感じで生まれた楽曲もたくさんあるので。不眠症は自分のしんどい部分だけれど、そのおかげで自分があるような気もする。だから自分の嫌な部分を、無理矢理にでもいいからポジティブに変換していくというのはいいメッセージかなと思って、このタイトルを付けました」 眠れぬ夜は孤独と向き合う時間でもある。だからこのアルバムは必然的に、孤独との闘いがテーマになった。ジャケットに映るのは、清水 翔太が実際に制作しているプライベートスタジオだ。「今回のアルバムの曲はほとんどここで作った」と彼は言う。「大きな窓があるんですけど、1回も開けてない(笑)。ここに一人、こもりっきりです」 アルバム制作は当初、曲がなかなかできずに難航したという。進み出すきっかけとなったのは、自分のルーツを巡る旅だった。「初心に返ろうと思って、子どもの頃に住んでいた大阪に旅行しました。そこで中学時代を最後に会っていなかった同級生に会い、忘れていたことを思い出し、子どもの頃の自分に出会えた。いろんなものを得て、東京に帰ってすぐに曲を書きました」。この時書いた「Memories」は、大阪で過ごした日々の苦悩や葛藤、それをいかに乗り越えていったかを赤裸々に語る自伝的な楽曲となった。「思ってることを好き勝手に吐き出して書いたら、すごく気持ち良かった。今は思うことをそのまま正直にやるのが自分が求めていることなんだと気付き、そこから一気に曲を作り始めました」 清水 翔太はこのアルバムで自身の人生観を率直に語っている。孤独との向き合い方。自分が譲れないもの。これまでの人生で得たものと失ったもの。「燃え尽きるくらいのエネルギーで作った。だから聴いてもらうことがすごく楽しみだし、怖さもあります」。そう語る彼に、いくつかの曲を解説してもらおう。 Loser 勝負事に憧れがあります。音楽というのは基本的に主観で好きかどうかを決めるもの。自分はその曖昧なものを仕事にしている分、スポーツのようにはっきり白黒がつく世界に対してリスペクトがある。勝負をするなら勝ちたいけれど、僕の好きな映画『ハスラー2』では負けた側の哀愁が描かれていて、それもまた一つのドラマだなと思います。この曲は最初自分をルーザーにしていましたが、クールなトラックと雰囲気が合わなかったので、相手をルーザーにして“僕には勝てないよ”と歌っています。勝者側に立つのは僕にとっては珍しいアプローチなので、ファンの人はびっくりするかもしれませんね。 Life Style 自分がラップをやってみようと思うきっかけとなった方であるKREVAさんの「イッサイガッサイ」のフレーズをサンプリングしています。「Kraberみたいな音楽」というパートは、KREVAさんと、大好きなゲームに出てくる一番強い武器“クレーバー”をかけて、「自分の音楽は一撃で仕留める力を持っているよ」と伝えています。この曲で歌っているのは、丸く収まらず常に尖っていたいという気持ちと、「とはいえもう34か、体も痛いな」みたいな実感と(笑)。曲作り中は座りっぱなしで、明らかに不健康な生活をしているので、体にダメージも出てきた。でも、月日が経てば経つほど仲間たちやファンとの絆は深くなっていく。そんな話をしています。 Baby I love you so 今回のアルバムは結構コーラスワークも凝っていて、この曲にもたくさん声を重ねています。僕のコーラスって、ある意味適当なんです。コードで考えるのではなく、「ウー」とか「アー」とかその場で思いついたのを歌ってみる。だからよく聴くとうまくハモっていないところもたぶんあるんですけど、それもそれで味かな、みたいな(笑)。よく言えば感覚派。それが音楽的に正しいのか分からないですけども(笑)。 東京ライフ KANさんの大好きな楽曲をカバーしました。この曲がリリースされたのは1989年で、僕と同い年なんです。マンガ『ツルモク独身寮』にこの曲の歌詞が出てくるんですけど、主人公の名前が正太(しょうた)で、なんだかいろんな縁を感じています。ずっと好きでカバーしたいと思っていましたが、このアルバムを作っている時にどうしても入れたいとひらめき、ギリギリのタイミングでしたが速攻で動いて実現しました。アルバムの場面転換となる、すごくいいポジションに入れられて良かったです。 Nights 楽曲を作るときに正解は無いから、評価するのはその瞬間、自分一人です。自分がいいと思うか、微妙なの作っちゃったなと思うか、どちらかでしかない。いつも「これ最高だな、天才かも」と思える曲ができたらいいけれど、「微妙だな」と思うほうが明らかに多い。だからクリエイティブがすごく発揮できている状態の自分を常に探しながらスタジオにいるわけです。でも、その作業に疲れてくる瞬間もあって、そんなときに友だちから連絡が来て「飲みに行こうよ」と誘われたら「行くか」みたいな(笑)、そういう目の前の欲と闘う瞬間を書きました。アルバムを通して孤独との闘いを書く上で、孤独からの逃避もやはり描かないといけないと思って。 君がいない、僕らの日常 友だちを失うという曲です。僕はすごく自分勝手で自己中心的な性格だから、仲良かった人とテンポがずれてきて、仲良くなくなっていくのを結構よく経験するんです。言い訳をさせてもらうと、アーティストは簡単に人のテンポに合わせない、人の意見に左右されない存在であるべきとも思うから。でも、僕はこのアルバムを通して、孤独というのは嫌なもの、つらいものだということをたくさん言っているわけです。人は一人では生きられないことをテーマにしているのに、最後に自分のせいで大事な人を失うことを皮肉っぽく歌って、やはり人生はうまくいかないと言っている。最後の最後に自分自身の表現を邪魔したくなったというか、少し裏切りたかったんです。ひねくれていますよね(笑)。

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