Hold The Girl

リナ サワヤマ

Hold The Girl

「母が私を産んだときの年齢を超えて30代になり、今まで自分がやってきたことや自分に起きたことを見つめ直すと、まだまだ子どもだったなと思うと同時に、優しさを持って見ることができるようになった。もう少し大人の視点から物事を見ているアルバムになっていると思います」と、リナ サワヤマはセカンドアルバム『Hold The Girl』についてApple Musicに語る。
「ファーストアルバムの頃の私はものすごく怒っていた」と、全世界に自身の存在を知らしめた2020年のデビューアルバム『SAWAYAMA』について振り返る。1990年、新潟に生まれ、東京を経由して、4歳でイギリスに渡ったリナ サワヤマは、宇多田ヒカルや椎名林檎などのJ-Pop、ブリトニー・スピアーズやBeyoncé、カイリー・ミノーグといったR&Bやポップを吸収しながら、イギリス生活における苦労を重ねてきた。前作では、日本で育った親とのギャップやイギリスに暮らすアジア人として経験したマイクロアグレッション(無意識に行われる偏見や差別的な言動のこと)、そして、パンセクシュアルである自身が救われたというもう一つの家族であるLGBTQ+のコミュニティについて、時に怒りを交えながら歌ってきた。「あの作品は家族をテーマにした作品だったんですけど、『STFU!』や『Dynasty』といった曲は若者の視点、ある意味子どもの反抗期みたいな部分もあったかな」
怒りに突き動かされていた前作に対し、このセカンドアルバムでは時として許すこと、その寛容性が楽曲の表現世界を豊かなものにしている。この精神的な変化は、コロナ禍のロックダウンで不安が膨らむ中通い始めたというセラピーが大きく影響したという。より良い自分を育て直そうと、内なる過去の自分を抱き寄せる「Hold The Girl」は、2020年末より始まったアルバム制作において最初に手掛けた曲であり、作品全体の方向性を象徴するアルバムタイトル曲となった。「ありのままの息子の姿を受け入れられなかった母親の視点から書いた『Send My Love To John』もそう。子どものためにすべてをやってあげたいと願う親でも、時として受け入れられない出来事が起きたりもする。だからこの曲では、親の抱える後悔の念を描きつつ、曲の最後で、お母さんが息子のボーイフレンドに「愛を伝えてね」と一言言ってくれるという親からのちょっとしたわび状になっています。“あのときは悪かった”という言葉を待っている人たちは多いと思う。そういう人たちのための曲です」
差別の解消に向かう社会の流れに逆らう動きも見られる現代の地獄を、怒りやアイロニーを交えて描きつつ、「This Hell」では高揚感あふれるグルーヴと共にLGBTQ+コミュニティの連帯を呼びかけている。「例えば、レディー・ガガやエルトン・ジョンは、自分たちの立場をいい意味で利用してメッセージを打ち出してると思っていて、それはまさに自分がやりたいことなんです。ただ世界が抱えてる問題があまりにも多すぎて、時々がっくりしてしまう時もある。でもその中でも自分ができること、役に立てそうな問題に携われたらなって」。この曲では、シャナイア・トゥエインやテイラー・スウィフトに触発されたというカントリーミュージックとグラムロックのまばゆいギターリフ、そしてダンスポップを融合。サウンド面における、こうした斬新な組み合わせの妙こそ、リナ サワヤマの真骨頂だ。「音楽でもアートでも、もうすべてがやり尽くされていると思っています。オリジナルな曲を追い求めていた20代の頃はオリジナルな曲が作れなかった。でも、いろんな要素のコンビネーションによって、自分らしさ、自分らしい真実を形で表すことはできる。既存のジャンルを使っていいと思った瞬間、みんながオリジナルだと言ってくれる曲が作れるようになった。だから、自分らしくオーセンティックな曲作りを通じて、自分にしかできない音楽を提供したいと思っています」
スタジアムロックのような壮大さをたたえた「Phantom」、インダストリアルビートが冷たい響きを醸し出す「Holy (Til You Let Me Go)」や「Hurricanes」、マドンナの『Ray of Light』からインスピレーションを得たという「To Be Alive」など、サウンド面でもジャンルを超えた進化を重ねているリナ サワヤマ。「曲でみなさんをハッピーにさせるのは大好き。でも、アートというのは現実的に今起きている問題を取り上げるべきだと思うんです。社会や政治が上手く回ってなければ、当然アートもそのことについて触れ、怒りを表現したり、人々を怒らせるようなテーマで書かれるべきなんじゃないかなって。だから、怒りというのはまだ持っているし、その怒りは持ち続けたいな」

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