

2012年、アッシャーは2010年代初頭のトレンドだったEDMやダブステップからの影響を多大に受けたアルバム『Looking 4 Myself』をリリースした。同じ頃、ヒップホップシーンでは政権交代が起こっており、2000年代が生んだスターたちは、若者文化に直接語りかけるとき、必ずしもそれまで慣れ親しんできた手法を取らなくなっていた。その代わりに、全米各地のストリートから新たなアーティストたちが登場し始めた。シカゴではグッチ・メインとワカ・フロッカ・フレイムにインスピレーションを得たドリルシーンが誕生し、チーフ・キーフ、リル・リース、Lil Durkが世界に知られるようになった。その一方で、A$AP Mobやジョーイ・バッドアス率いるPRO ERAのような集団は、長きにわたって不調だったニューヨークシティのラップシーンに新たな息を吹き込んでいた。
南部のアトランタでは、間もなく世代を決定付けることになるアーティストたちが声を上げ始めており、後に世界中のヒップホップへのアプローチを変えることになるサウンドを形作っていた。2012年、ヤング・サグ、フューチャー、ミーゴスのようなアーティストたちは、やがて起こる統治の初期段階にいた。彼らは2016年ごろには大物ラッパーとなり、ヒップホップカルチャー以外でも、チャートを制するポップの作り方に影響を与えていた。そのため、同年『Looking 4 Myself』に続く作品を携えて帰ってきたアッシャーにとって、それはスマッシュヒットを飛ばしながら本拠地に戻る上で歴史的に絶好のタイミングであり、まさに彼は8作目のアルバム『Hard II Love』で成し遂げたのだった。
このアルバムは、アトランタが乗っ取った新たなメインストリームのど真ん中にアッシャーを位置付けた。しかし、同郷のアーティストたち(リル・ジョン、リュダクリス、ジャーメイン・デュプリ、ほか)と一緒に仕事をしていた2000年代中ごろとは異なり、この頃のアッシャーはOGとしての役割を担うようになっていた。そのような関係性を示す典型的な例が「No Limit」で、フィーチャリングアーティストのヤング・サグはバースで輝きを放っただけでなく、おなじみの強烈なアドリブでアッシャーの歌声を盛り上げた。R&Bの書き手として何度もエリートと認められているフューチャーとのコラボレーション「Rivals」は、さらに絶妙な組み合わせだった。そして、「Make U a Believer」では、過去10年間のアトランタのサウンドにおける最重要人物の一人である、Metro Boominがプロデューサーとして起用された。『Hard II Love』の全曲を通して、アッシャーは故郷へのラブレターをつづっているのだ。