

「自分の生き写しみたいなアルバムだなと思います」。星野源は6作目のオリジナルアルバム『Gen』についてApple Musicに語る。前作『POP VIRUS』から6年5か月ぶりとなる本作は、2021年に発表した「創造」で幕を開ける。この曲は星野に大きな意識変革をもたらしたという。「音楽を長くやっているとだんだん楽曲セオリーみたいなものができて、気付くとそれを無意識にやってしまう。でも『創造』を作る時に、いい/悪いとか、何が面白いかという判断を全部自分だけでしようと決めた。そこから作曲の方法が完全に変わりました」。その頃、制作環境にも大きな変化があった。「もともとはギター弾き語りで楽曲を作り、それを編曲するというやり方だったけど、コロナ禍を機にキーボードを使って、自分一人で打ち込みも作れる環境を整えました。バンドメンバーが演奏してくれた音源をソフトに取り込んで、自分でエディットやミックスもできるようになった。おかげで自分の中にある音楽のビジョンを漏らさず表現できるようになりました」 今回はプロユースの音楽スタジオで録音した音だけではなく、自身のスタジオで仲間と録ったセッション音源や、自分の部屋で録った音も使った。時には小節ごとに時を隔てた音源を織り交ぜるという手法も試みた。「きれいな音も汚い音も、昔の音も今の音も全部等価であるというテーマの下、さまざまな音が無秩序に並ぶアルバムにしたかった。とにかくここには自分が好きな音しか入っていない」と星野は語る。全16曲には、ルイス・コール、カミーロ、コーデー、Lee Young Jiら多彩なフィーチャリングアーティストや、国内外のミュージシャンも参加。多言語の歌を重ねるという斬新な手法を取り入れた楽曲もあり、制約を受けず、自分の音楽を追求する彼のスタンスが強く感じられる。 自身の名を冠したタイトルは「なんとなく付けた」と星野は笑う。「自分がいいと思う音楽をどんどん作っていったら、自分をバンッと転写したようなアルバムになった。英語では“ジェン”と読めて、さまざまな意味を持つ言葉でもあるので、これが一番いいなとファーストインプレッションで決めました」。鮮烈なアイデアを盛り込み、さらに自由に音楽と遊ぶ。表現者として新たなモードに踏み出した本作について、ここからは星野自身にいくつかの楽曲を解説してもらおう。 創造 2021年に発表したバージョンとはちょっと違うかたちにしたいと思っていました。オリジナルは冒頭すぐに歌が入るけど、今回はインストゥルメンタルで始めたくて、メインのメロディを自分で弾こうと思いついた。それで自分のスタジオでシンセサイザーを前にしたら違うメロディがどんどん出てきちゃって、それがすごく楽しかった。結果として全然違うかたちに生まれ変わったこの曲を1曲目にしようと思いました。 Mad Hope (feat. Louis Cole, Sam Gendel, Sam Wilkes) 曲の作り方を変えてからは、役者の仕事をしている時も、本を書いている時も、とにかくずっと音楽を作っていました。その中でルイス(・コール)にドラムを叩いてほしいものができたので、デモを送って「僕が打ち込んだものと同じでもいいし、アレンジしてもらってもいいし、好きなようにしてね」と言ったら、めちゃめちゃ最高な音を入れて送り返してくれました。そこからどんどん足したい要素が出てきて、ロサンゼルスに行った時にルイスのお家で追加のドラムを入れてもらいました。 Glitch 音が無秩序に並んでいるというテーマを象徴した曲。「創造」と同じくらいの時期にバンドとセッションで作った音源を軸に、5年くらいかけて少しずつ作り進めました。プリプロダクションのデモがすごく気に入っていたから録り直さずに使いたくて、そこにルイス(・コール)のドラムや、僕が弾いたソフトシンセなどの音を全部ぐちゃぐちゃに入れてエディットしてる。ベースはハマ(・オカモト)くんが5年前に弾いた音と、2025年現在の音を小節ごとに切り替えながら入れた部分もあります。冒頭の音はヴィンテージのMac、Macintosh Quadraの起動音。小学生の時からずっとQuadraが欲しくて、30年越しの思いがかなってついに手に入れられました。 2 (feat. Lee Youngji) リリックと音の関係性をもう一回見直したくて、ここ5年くらいずっとチャレンジし続けています。例えば僕は洋楽を聴く時、意味が一発で分からなくても、ここはこの言葉じゃないといけないんだろうなと感じることがある。そう感じられるリリックを僕も書きたかった。この曲に参加してくれたLee Young Jiさんはしっかり僕の思いをくんでくださり、「自信はないけど日本語でもラップをしたい」と、韓国語、日本語、英語の3言語を使ったリリックを書いてくれて感動しました。 Memories (feat. UMI, Camilo) 英語、スペイン語、日本語の歌を同時に重ねることを思いついた時、めちゃくちゃいいものができるなと思った。違う言語が同時に聞こえるなんてカオスだから、多分セオリーとしてはやっちゃいけないことだけど、このメロディなら大丈夫だろうと決めました。カミーロとUMIは遠い場所に住んでいるけど心でつながってる感じがあり、その距離が曲に出てる気がします。 Sayonara ここまで低音を歌ったのは多分初めてで、ウェーってなっています(笑)。自分の部屋でパソコンを前に歌うと、自然に声が小さくなってキーが低くなる。それも新鮮でいいなと気の赴くままに作って、聖歌隊のようなコーラスも自然にできていった。以前はニュアンスを込め過ぎずに歌うという縛りが自分の中にあったけど、今回はただ自分がいいなと思う歌い方にしようと思っていました。 異世界混合大舞踏会 アナログシンセサイザーにハマって、ヴィンテージから新型までたくさん集めたので、アナログシンセ大会みたいな曲ができました(笑)。アナログシンセは扱いが難しいけど、実際に触ると仕組みが分かってきて、めちゃくちゃハマる。中でもアナログからデジタルに移行する時代に作られたシンセの音がすごく好き。不安定なアナログ音をとにかく安定させたいという製作者の思いを感じるし、生音の響きを目指しているけどやっぱり生音とは全然違って、これは一つのオリジナルの音だなと思う。僕が小さいころにファミコンで見たドット絵にも通じる、ノスタルジックで唯一無二の魅力があります。