

2022年、キッド・カディはApple MusicのZane Loweとのインタビューで、音楽活動に完全に終止符を打つことを考えていると明かした。「キッド・カディとしての活動は、いったん休止して落ち着きたいと思う」と彼は語っている。「もう終わりにしたいんだ」。一切妥協のないキャリアを15年間歩んできた彼は、数々のメガヒットを記録し、過去15年のヒップホップを定義付けたメロディ主導のスタイルを開拓し、ブログ時代の「Mount Rushmore(歴代最高の4人)」に名を刻む存在とまでなった。そして彼は飽きてしまった。 それから3年後のカディは、再び意欲を燃やし、かつてないほど幸せを感じている。2024年のトラップにインスパイアされた2作のアルバム『INSANO』と『INSANO (NITRO MEGA)』に続いて、自身初となるポップアルバムと位置付ける本作『Free』を発表。「自分のキャリアにおいて、クリエイティブな飛躍を遂げる必要性を感じた」と彼は2025年にLoweに語る。「みんなが知ってるように、俺はリスクを恐れない人間だ。でもここ5年間は、自分自身を追い込んでる感じがしなかった」。11作目のソロアルバムに取りかかるにあたって、彼はこう自問した。「今の世界に足りないもので、俺が提供できるものは何だろう?」 その答えは、希望だった。クリーブランド出身の彼は、これまでも臆することなく自分の弱さをさらけ出し、長年にわたる鬱(うつ)との闘いについて率直に語ってきた。アルバム『Free』の中で、2025年6月にLola Abecassis Sartoreと結婚したばかりの彼は、状況は必ず良くなると厳かに宣言する。ここでの彼は大胆にもポップパンクのコードや巨大なフック、そして時にはダブステップのドロップまで駆使しながら、恐怖をものともせず幸福をつかみ取ろうと奮闘してみせる。「Turns out I had control of my own Truman Show(結局自分で自分の『トゥルーマン・ショー』を演出していた)」と、彼は「Truman Show」の疾走感あふれるビートに乗せてほえる。そして結婚式で妻にささげたという、思わず携帯電話の光を掲げたくなるアンセム「Neverland」では、「My heart’s skipping/The scales tipping/It’s called living/And I could get used to it(心が躍る/天秤が傾く/これが生きるってこと/癖になりそうだ)」と甘く歌い上げる。 24歳で世に知られるようになり、41歳になったラッパーの彼は、自分がここまで来るとは思いもよらなかった。「若いころは、自分が40代になるなんて考えたこともなかった。30歳を過ぎた自分の姿なんて想像できなかった」と彼はLoweに語る。「それなのに、このアルバムが今の俺が感じてる喜びと安らぎをそのまま表現したものとして存在するのは本当に素晴らしいことだ」。彼は「Salt Water」のレコーディング中、感情が込み上げてきたことを振り返る。この楽曲のエンディングでは、リスナーに直接語りかける形で締めくくる。「Yes, my life has been one hell of a ride(そう、俺の人生はとんでもない道のりだった)」と、彼は自身のトレードマークであるメロディを捨ててスポークンワードで語り、こう続ける。「There was a time where happiness was a very far-off and distant thing for me to acquire. But I made it out of that darkness. I saw the light(幸せなんて、遠くにある手の届かないものだと思えた時期もある。でもそんな闇から抜け出して、光が見えたんだ)」