

「過去のメンバーを含むバンド全員で、非常に民主的に制作した」。ムーンライダーズの鈴木慶一(Vo/G)は、アルバム『e.d morrison』について語る。デビュー50周年を飾る本作は、惜しくもこの世を去ったメンバー、かしぶち哲郎(Dr/Cho)と岡田徹(Key/Cho)の存在を内包した楽曲で始まり、終わる。実弟の鈴木博文(B/G/Cho)は、彼らが残した音源を基に共作した楽曲について「やはりこの2人がいないと50周年は迎えられない。人がいなくても、残された楽曲があるから」と言い、慶一がこう続ける。「楽曲さえあればいるようなもんだよね。ところが、いないんだなあ。リアルタイムでのやり取りはできないから、私は『かしぶち君どう思う?』とブツブツつぶやきながら歌詞を書いていた」 制作には、これまで長らくライブでサポートを務めてきたスカートの澤部渡、そして佐藤優介が正式に参加。「知らないうちに彼らがディレクターズチェアに座り出したんだ」と慶一が明かす。「本人たちいわく『誰も座らないから心配で』と。せっかく座ってくれたから『じゃあ、そのままいきなさいよ』という感じで、2人の意見が結構入っている。彼らは判断の基準がわれわれととても近いし、粘り強い。その粘り強さはわれわれも持っているけど、ともするとくたびれ果てるので(笑)、彼らのおかげで活性化した」。澤部と佐藤は根っからのムーンライダーズマニアであり、過去から現在に至るスタイルを研究し尽くしている。そんな2人の提案だからこそ、納得できることが多かったという。「2人には最初の頃のムーンライダーズを再現したいという思いがあってね。自分たちは全部を覚えているわけじゃないから、それを要求されるのが結構厳しかった」と博文は笑う。世代の異なる彼らの存在がフックとなり、50周年にふさわしいスケール感と死生観を宿した作品が完成した。 タイトル『e.d morrison』は“moonriders”のアナグラムであり、1980年代からメンバー全員による共作名義として使用されてきた言葉。これをアルバム名に掲げる提案をしたのは澤部だった。「今回は1人1曲ずつ持ち寄り、過去のメンバーも含めた全員で作る曲もあった。かつて使っていた名前だし、これにかなうものはないなと思う」と慶一は振り返る。半世紀の重みを携えつつ、それすらも長い旅の通過点として響かせる本作。「デモがたくさん残っているから、来年もアルバムができたらいいなと思っている。今朝思い付いたんだけど」と慶一が言えば、「それは俺、今初めて聞いたな」と博文が返す。今なお尽きることのない創作の泉を持つ2人に、ここからはいくつかの楽曲の解説をしてもらおう。 トンネルの向こうのNothing 慶一:トンネルの向こうは雨模様で、何もない。そして岡田君は亡くなってしまった。そこで“Nothing”からわれわれのことを見ているような歌詞にしようかなと思った。岡田君の作った曲「9月の海はクラゲの海」に「Everything is nothing」というフレーズがあるんだけど、そのへんも引用しつつ。いなくなってしまった人を、1曲目にもってくるのが一番いいんじゃないかなと思った。 博文:この曲を1曲目にするのは、センチメンタル過ぎるんじゃないかという反対もありました。でも、前作『It's the moooonriders』の1曲目がムーンライダーズっぽくなかったから、今回は逆に、すごくムーンライダーズらしい曲で始めようということになった。で、ここから全然違う方向へ行っちゃうんだけどね(笑)。 俺たち死に神、ヴォランティアーズ 慶一:この世の大地や海は、神や悪魔によってできているのではなくて、人間によってできているということを伝えたかった。死神というのは、その間にいるわけだ。年老いた人も若い人も同じように、いつか死神になるのかもしれないし、なるのを拒絶するのかもしれない。そこは非常に曖昧にしていて、どっちなんだという投げかけです。結論は言ってないし、ないんじゃないかな。ただ、今、世の中で起こっているトピカルなことは取り入れてある。判然としないものを聴かされている皆さんはご迷惑かもしれないけど、その深読みこそ楽しみと思っていただけるとありがたい。 Suite 腕に夕日 肩に枯れ木 慶一:武川(雅寛、ヴァイオリン/トランペット/Cho)が作った「腕に夕日」という非常に武川らしい曲があって、私が突然、この曲の後ろにもう1曲あったほうがいいんじゃないかと思い付いた。当初はアウトロを作るつもりでインストを録っていたんだけど、どんどん長くなっていったから、歌詞も作って組曲へと発展していった。 Suite シャンデリア 慶一:かしぶち君がコンピューターに残した曲を私が引っ張り出して、100曲くらい聴いたかな。その中から2曲を選んで、組曲にしようと思った。それが「1st Mov. 天上のシャンデリア」と「3rd Mov. Dance ウフツ!」。その2曲だけでも成り立ったとは思う。でも、1曲目がとてもいいメロディだから、何度も繰り返しているうちに、全員が歌える分だけ繰り返そう、となって。すると今度は、博文さんの歌うメロディを思いついちゃってね。「これもいいな、ちょっと録音しておこう」と残しておいたのを、間に入れたらどうだろうかと考えた。これはメンバーがスタジオで顔を合わせていないとできないことだったと思う。かしぶち君の音源は聴き取れない歌詞があって、そこは「聴き取り不能」と書いてある。完全な真意は分からないままだけど、分かるところはみんなで歌いつつ「何を言っているんだろう」と気になって終わる。でも、ある日「これだ」っていうのが聴こえる日が来るかもしれないね。