Cuts & Bruises

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インヘイラーの2021年のデビュー作『It Won’t Always Be Like This』は、希望も疑いもすべてひっくるめて、世界的なパンデミックのさなかにブレイクスルーするバンドの姿を見事なまでに捉えた大胆なドキュメンタリーだった。そしてこの2作目は、ダブリン出身のインディーロッカー4人組が荒野に解き放たれたことを祝福し、バンドが体験した事をさまざまな角度から撮ったスナップ写真のような内容になっている。「僕たちは1年間ツアーに出ていたから、自然にバンドを一緒にやることについてのアルバムになった」と、ベーシストのロバート・キーティングはApple Musicに語る。さらに音楽的には『It Won’t Always Be Like This』で創造したサウンドの幅を劇的に広げてもいる。サビはより大きく大胆になり、より確かな自信が演奏にみなぎっており、そこには自分たちの音楽が巨大な規模の観客とつながることを目にした経験から得た威勢のいいグルーヴがある。「このアルバムを通して続いている感情がある」と、リードボーカルのイライ・ヒューソンはApple Musicに伝える。「インヘイラー内で起こっていることを曲にするのはイージーだったよ、だってずっと一緒にいたんだから」 また、アルバム収録曲には、目覚ましいミニマリズムも宿っている。「ここに並んでいる曲はこの方がいいと僕たちは信じていて、情報は少ない方がいいと思った」と語るのは、ドラマーのライアン・マクマホンだ。「すべての曲を、もう少し呼吸できる余地がある感じに仕上げたかった」。USツアーと、ブルース・スプリングスティーンやボブ・ディランのストーリーテリングにインスパイアされた今作で、インヘイラーは彼らの音楽の領域を広げている。ギタリストのジョシュ・ジェンキンソンも加わって、以下、メンバー全員が各曲について語る。 Just To Keep You Satisfied ロバート・キーティング(以下キーティング):「この曲はこのアルバムのために最初に書いた曲だから、オープニング曲にもなるかもしれない」って、僕たちはいつも言っていた気がする。歌詞は、週明け初日の早朝のシーンに設定されていて、また完全に新しくスタートするっていう感覚を、これ以上ないほど鮮やかに描けたと思う。 イライ・ヒューソン(以下ヒューソン):僕たちはファーストアルバムの1曲目を、すごくビッグなサウンドのオープニングにすることを意識していたけど、この曲はちょっとミニマルになっている。でもより吸引力があって、引き込まれるんだ。 Love Will Get You There ジョシュ・ジェンキンソン(以下ジェンキンソン):デモバージョンは、これよりもっとダークだった。 ヒューソン:最初サビがなかったから、アルバムに入れる曲になるかどうか分からなかった。それからサビが出てきて、すごくポジティブな曲になったから、僕たちはシングル曲の一つにしようって決めたんだ。北部特有のソウルビートにもみんな興奮していたと思う。いつも直球の、速いインディーロックのビートにすごく慣れているから、このリズムはすごく新鮮に感じられた。自分たちが正しい方向に進んでいる実感を持てた曲だよ。 So Far So Good ライアン・マクマホン(以下マクマホン):これはアルバムのために最後に書かれた曲だった。8月に僕たちがオープニングを務めたArctic Monkeysのツアーの後のある日、僕がイライの家に行ったら、彼がこの曲のデモを聴かせてくれて、すごくいいと思ってワクワクしたんだ。アルバムを一つにまとめる曲を探していたところだったし、レコーディングプロセスのかなり後に作られた曲だったから、自然発生的に出てきた側面があって。ツアーに出たことと、フェスティバルでいろいろなバンドを見たことに、僕たちは影響を受けていたんだ。 These Are The Days ジェンキンソン:この曲が出てきた当初は、まだ完全に形ができていなかったから、メンバーの誰もそんなに興奮してなかったよね。 ヒューソン:その後、アップテンポな何かが必要だって気付いた。これは、僕たちにとってセカンドアルバムへのゲートウェイになる移行の曲って感じがしたんだ。ファーストアルバムにもフィットする曲でありつつ、違うサウンドの曲だから。 If You’re Gonna Break My Heart ヒューソン:この曲は僕たちが当時聴いていたアメリカンミュージックにかなり影響されている。自分たちなりのやり方で、アメリカと、アメリカでのツアーに音楽的に敬意を払った曲なんだ。アメリカのショーバンド的な感じがする、劇場とかで演奏されるのが似合いそうな曲になっている。そういうライブバンドの感触があったから、曲を作る上では一番問題が少なかった曲だと思う。 Perfect Storm キーティング:この曲は、ほぼその場で書いてその場で仕上がった感じだった。演奏したことがない曲なのに、僕たちは同時に同じ曲を演奏し始めて、すごく面白かったよ。こういうことは、50回のジャムに1度ぐらいの割合で起こるんだ。スタジオでそれを始めて、そこから雪だるま式に曲が出来上がった。イライがものすごくいい歌詞を書いてくれた。僕たちを旅に連れ出してくれるような、物語が感じられる曲なんだ。 Dublin in Ecstasy マクマホン:これはアルバムの中で一番古い曲なんだけど、いい感じでファーストアルバムよりもバンドらしいサウンドになったと思う。僕たちが17、18歳ぐらいの時によくライブで演奏していた曲なんだ。ごく初期のファンはこの曲をすごく気に入ってくれていて、その理由があまり分からなかったんだけど、僕たちが今作でファーストよりもバンドっぽいサウンドになっているのなら、この曲を試してあの場所に立ち返るのは筋が通っていると思ったんだ。 ヒューソン:それに今作はバンドをやることについてのアルバムだから、活動の初期に僕たちがたくさんプレイしていたこの曲をやるのは正しい気がしたんだよね。ちょっと懐かしく感じたよ。 When I Have Her On My Mind キーティング:この曲の音楽は、アメリカでツアーをしていた時に、サウンドチェックの間に書いたんだ。ジャムをしながら作曲する前に、僕たちはデフトーンズを聴いていた。あのツアーでは、これまで一度も行ったことのないさまざまな場所に行って、過去最高に好きなツアーの一つだったから、音楽的に少しノスタルジックなサウンドになっている。 Valentine マクマホン:この曲を書いた日は、簡単に当てられるだろうね。 キーティング:うん、僕たちはこの曲をバレンタインデーに書いたんだ。天才的なマーケティング戦略だろ。「『Valentine』ってタイトルにしよう」って、あの日の僕たちの脳がどれだけさえていたかが分かるよね。サウンド面では、すごくいい場所を発見したんだ。すごく新鮮に聞こえる。とてもたくさんのバンドを思い出させる曲でありながら、誰にも似ていないサウンドなんだ。僕はいつも、それっていいサインだと思っている。 The Things I Do ヒューソン:「Just To Keep You Satisfied」を作った時に、この曲のコードも同時に作って、それを「この上にビートを乗せてくれる?」ってジョシュに送った。冗談抜きで、5分後に彼がビートを乗せて送り返してくれたんだ。それから僕たちはこれをライブルームに持って行って、演奏を始めて、曲を膨らませていった。この曲では元ブラック・グレープの素晴らしいキーボーディスト、マーティン・スラットリーが参加してピアノを演奏してくれたよ。 マクマホン:このアルバムで、彼は僕たちにとってのビリー・プレストンだった。同じ空間にいて、僕たちをインスパイアしてくれた。バンドメンバー以外の人と一緒に演奏することで、メンバーみんながもっと頑張らないといけなかった。 ヒューソン:そう、「ゲット・バック」(ビートルズ)でビリー・プレストンの演奏が入って、人々が「すごい」って驚く時みたいな感じだね。 Now You Got Me マクマホン:僕たちは当初アルバムに収録されなかったこの曲をジャムっていて、どこにもたどり着けなかった。それでみんなイライラして、その夜は早く終わりにしようとしていたんだ。その後にロブがペダルを踏んで、突然このリフをプレイし始めたんだよ。 ヒューソン:それから1時間半以内に、全体の構成とサビが出来た。こういう曲のために、常に網を張っておく必要があるんだ。どこからともなくやって来るから。僕たちが曲を書くんじゃなくて、曲が自分から出てくるんだ。 キーティング:ファーストアルバムの時は、まだ自分たちが技術を学んでいるさなかだったから、ベストの演奏ができなくて、時には何百回もやり直した。今回は大量にショーをやった後だったから、ついに自転車に乗れるようになった感じだった。これだ、っていう実感があって、それが間違いなく僕たちの音楽に影響した。 ジェンキンソン:でも、僕はもう二度とセカンドアルバムを作りたくないけど。 ヒューソン:それは完全に同意だね。

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