

1961年に初リーダー作『渡辺貞夫』をリリースして以来、サックス奏者/作曲家として日本のジャズ界をけん引し、第一線を歩み続けるレジェンド、渡辺貞夫。今作は音楽活動75周年を記念して、バラードをテーマに制作されたスタジオ録音アルバムだ。バックメンバーは、『PEACE』(2024年)に引き続き、近年、渡辺が全幅の信頼を寄せるラッセル・フェランテ(P)、ベン・ウィリアムス(B)、竹村一哲(Dr)が務めており、リラックスしたムードがアルバム全体を包んでいる。アルバムタイトル曲の「BUT BEAUTIFUL」「EVERYTIME WE SAY GOODBYE」などのスタンダードナンバーから、「REMEMBRANCE」「SIMPATICO」などの過去に録音された渡辺自身の楽曲までが演奏され、アルトサックスによるジャズとブラジル音楽が心地よい空間を作り出す。中でもファンにとってうれしいのは、1984年の代表作『RENDEZVOUS』に収録された「FIREFLY」の再演だろう。当時フュージョンで演奏された名曲がアコースティックジャズのミディアムバラードとして新たな魅力を放っている。ラストはボサノヴァの巨匠アントニオ・カルロス・ジョビン作曲の「POR TODA A MINHA VIDA (For All My Life)」をアルトサックスのソロで演奏。93歳にして、今なお真摯(しんし)に音楽と向き合い続ける自身の心情を表現したような珠玉の名演だ。