Back In Love City

Back In Love City

The Vaccinesは5作目のアルバムの制作中、しばらく感じたことのなかった若々しい気持ちを味わう体験をした。「普通、バンドでファーストアルバムが一番成功しやすいというのは、若者らしい無鉄砲な奔放さがあるからだと思う」と、シンガー/ギタリストのジャスティン・ヤングはApple Musicに語る。「自己不信で身動きが取れないこともないし、考え過ぎてしまうこともない。何もかもが純粋なんだ」。ロンドン出身の彼らは、そんなピュアな精神が早い段階で搾り取られてしまったのを感じていた。快活なガレージロックを鳴らした2011年のデビュー作『What Did You Expect From The Vaccines?』がプラチナを獲得したことで、イギリスのメディアから、ギターロックの救世主的存在としての役割を過度に求められてしまったのだ。「そのせいでしばらく息苦しかった」と、ヤングは言う。「ファーストの出来が良かったからだけじゃなく、あまりに売れてしまったから、それを踏まえた作品を作ることで頭がいっぱいだった。途中で少し道に迷ってしまったと思う」それから10年近く経って、The Vaccinesは本アルバム『Back In Love City』のレコーディングによって若さを取り戻した。今作はヤング、ギタリストのフレディー・カァワン、ベーシストのアーニー・アルナソンの創設メンバー3人に、2018年の『Combat Sports』から加入したキーボーディストのティモシー・ランハム (Timothy Lanham) とドラマーのヨアン・イントンティ (Yoann Intonti) を加えた5人編成で作られた初めてのアルバムだ。「だから、いろんな意味で、僕たちは新しいバンドになった」と、ヤングは言う。書き溜めてきた曲が彼らのやる気を起こし、テキサス州エル・パソ近郊のペカン農園に建てられた広大な複合施設のレコーディングスタジオ、Sonic Ranchでの制作がさらなるインスピレーションを与えた。そこから生まれた音楽は、彼らのパンク精神とポップセンスを、ディスコの華やかさやインダストリアルサウンド、さらにマカロニウエスタンの独特の風味で飾り立てている。ヤングが冗談めかして「モリコーネ風インディーロック」と呼ぶそのサウンドは、どんどん二極化していく人間の表現を掘り下げる歌詞の背景として使われている。今作の楽曲は、感情が限りある商品として取引されるディストピアを舞台に、自分の感情を適切な代価で取り戻せる場所としての“ラブ・シティ”が描かれている。ヤングにとって、今作は曲作りにまつわる永遠の謎をいくらか解き明かすアルバムにもなった。「僕たちは常に進化しようとしてきたけど、それと同時に、The VaccinesをThe Vaccinesたらしめるものを解明しようともしてきた」と、彼は言う。「関心を持ち続けて、面白いものを作り続けて、自分の限界を押し広げていきたいけど、みんなを一緒に連れて行かないと意味がない。それを考えると夜眠れなくなるんだ」。ここでは彼が今作の全曲解説を通して、その解決策を明かしてくれる。Back In Love Cityガレージっぽくてちょっとパンクなんだけど、もっとディスコとか楽しいグルーヴの強めな曲を書こうとしていた。最初のバースでは、ラブ・シティにやって来るところを歌ってる。いつも思い出すのが、数年前に友達を数人連れて、サンフランシスコからラスベガスまで一日中かけてドライブしたことで、ちょうどベガスに着いたときに、夕日が沈んでネオンの光が輝き始めた。この曲で描いた世界はそれにかなり似ている。ここから物語が始まるんだ。Alone Star3作目の『English Graffiti』の曲作りをだいぶ進めてから、シングルが1曲もないって言われたことがあった。それでシングルになる曲を全部、1週間で書き上げる羽目になった。火曜日に「Dream Lover」、水曜日に「20/20」、木曜日に「Handsome」って感じで。この「Alone Star」はその月曜日に書いてたんだけど、どうしてもうまく仕上げられなかった。ちょっとぎこちない感じがしたから、アレンジや楽器構成やプロダクションにもうちょっとニュアンスを出したかった。『Combat Sports』の時にもう一度やってみたんだけど、そこでもまた、アルバムの内容にうまく合わせることができなかった。それで今回のアルバムでもやってみて、ボツになりかけたんだけど、最終的に全員が大好きになる状態にまで持っていけた。SNSで、「こんなの自分が知ってるThe Vaccinesと違う」みたいな変なコメントを見ると笑えてくるんだけど、そういう時に僕はこう思うようにしてる。「実はね、違わないんだよ。君が大好きですでに知ってる曲とまったく同じ週に作ったんだから」って。Headphones Babyこのアルバムには、運命論が全体のテーマになってるところがある。すべて諦めて死にたいというより、思い切ってやりたいことを何でもやってみたいって気持ちというか。快楽主義や、陶酔感もある。この曲を書き上げた瞬間、すごく興奮したのを覚えてる。すごく幸せな気持ちになった。ポップ過ぎるかもっていうコメントもいくつかあったけど、僕にはThe Vaccinesのヒットシングルの流れにある曲だと思える。「If You Wanna」のコーラスを初めて大声で歌った時だって、あまりに安っぽくてポップだからみんなで大笑いしたんだから。そういうビッグで楽しくなるコーラスがある曲は、これまでもずっと作ってきたんだ。Wanderlustこれは砂漠やテキサスが似合う曲だと思う。The Vaccinesにとって今までで一番ヘビーな曲かもしれない。もちろん超ポップでもあるけど、パンクロックというよりはロックに近いと思う。Paranormal Romance曲を聴いたり本を読んだり映画を観たりするとき、奇想天外な感じがして、ありえないとかありそうにないとか不死身な感じがするような、そんな感覚を出したくて大げさな表現をしてみた。この曲で初めて、(アルバムが)西部風や南部風なだけじゃなく、かなり映画的にもなってると思う。El Pasoこの曲はロサンゼルスでダニエル (Daniel Ledinsky)と一緒に作ったんだけど、彼には最終的にアルバムのプロデュースも手掛けてもらうことになった。その日に彼からSonic Ranch(テキサス州エル・パソ近郊にあるスタジオ)の話を聞いたんだ。Dave SitekかMiguelか誰かと一緒に行ったことがあるらしくて、とにかく素晴らしいスタジオだって言って、クレイジーな話をいろいろとしてくれた。それを聞いて僕は、「あ、明日の朝にエル・パソ行きの飛行機に乗るんだ。The Vaccinesのライブがフアレスであるから」って言った。そんなわけで、その夜にできた曲のファイルの名前を「El Paso」にしたんだ。それから半年後、彼にアルバムのプロデュースをお願いしたら、「俺たちは(レコーディングは)エル・パソに行くべきだ」って彼に言われて。今作には素敵な詩や思わぬ発見があふれてるから、エル・パソで作るのが運命みたいな感じがした。で、実際に行ってみたら、ちょっと大げさなことをやらずにはいられなくなった。あの環境を考えれば当然だけど、僕たちはテキサスに行くだいぶ前からモリコーネ風のインディーロックを目指していたんだ。Jump Off the Topこの曲を最初にレコーディングしたのは、2018年の単発シングル「All My Friends Are Falling In Love」と同じ時だった。これもまた、その時は完璧には仕上げられなかったんだけど、常にライブでのリアクションが最高な曲の一つだった。The Vaccinesの人気曲にはこれくらいのテンポの曲が多いと思う。かなり盛り上がるんだ。完全にアップビートで楽しくて、ちょっと間抜けなくらいかもしれない。それに喜びと悲しみが交錯する曲でもある。歌詞にはちょっとダークな雰囲気があるけど、子守歌みたいなメロディに乗せて歌われてる。XCT(このタイトルは)「Ex-city(元都市)」ってこと。これをタイトルにして後半の始まりにしたら面白いと思った。すべてが崩壊して、荒れ果てて見捨てられた状態のラブ・シティっていうアイデアが気に入ったんだ。デトロイトの中心街がほとんど廃墟になったとき、古いオフィスビルの20階に熊がいるのを見つけたっていう話を聞いたことがあった。本当かどうか知らないけど、この曲を書いてる時にそれが頭にあった。かなり不安定な感じの曲で、ところどころでちょっとインダストリアルとかニューメタルっぽいところさえある。Banditラブ・シティを念頭に置いて書いた曲のいい例で、誰かに心を盗まれる、もしくは感情を盗まれることを歌った曲。“愛の強盗団”さえ存在するような、そういう悪の世界、そんな暗部を宿した世界が存在するというアイデアが基になってる。Peoples’ Republic of Desireこれは中国の子供たちについての素晴らしいドキュメンタリーのタイトル。ある晩それを観ていて、「僕が存在すら知らなかった場所のドキュメンタリーを作った人がいるんだ」って思った。この曲の根底にあるのは、もう二度と感じられないと思っていた感情を取り戻せる場所があるっていうイメージ。Savage「Savage」は、フレディーが送ってくれたリフから生まれた。聴いた瞬間にすごく刺激的だと思った。これまで僕たちはスウィングするような曲をうまく書けたことがなかった。これは完全にグラムっぽくて、とにかく僕は興奮して、すごく原始的というか野性的なものを感じた。Heart Landこれは誤解されるんじゃないかと心配だった曲。この歌詞が、すごくナイーブで楽観的な13歳のイギリス人男子の視点から書かれてるものだってことがすぐに分かるといいんだけど。この子はアメリカに一度も行ったことがないんだけど、アメリカのポップカルチャーにどっぷり浸かってしまったんだ。アメリカの成れの果てに意見するというよりは、僕がかつて抱いてたアメリカのイメージを捉えることがテーマだった。Pink Water Pistolsこれは歌詞が先に出来ていたから、うまく合う曲ができるのを待っていた。フレディーがこのメロディを送ってくれたとき、「わあ、すごい、最高だ」って思った。分かりやすいかもしれないけど、この曲のテーマは、もっといい人間でいたい、もっといい人間になりたいと願うこと、そしてそれを他の誰かと一緒に叶えられるかもしれないと思ってることなんだ。

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