アンネ＝ゾフィー・ムターの60歳の誕生日を記念し、ウィーンで名高い楽友協会で行われたコンサートをライブ収録したこのアルバムでは、彼女の自叙伝風の系譜をたどることができる。このドイツ人ヴァイオリン奏者の記念日というだけにとどまらず、彼女が率いるアンサンブル、ムターズ・ヴィルトゥオージに所属する優れた若い才能をたたえる、喜びに満ちた気持ちが演奏にあふれているのも印象的だ。 ステージにおけるムターの伝説的ともいえるけん引力は、バッハのヴァイオリン協奏曲イ短調、さらにジョゼフ・ブローニュの最高にエレガントなヴァイオリン協奏曲イ長調において申し分なく発揮され、アンドレ・プレヴィンが元妻であるムターのため2014年に作曲した『Nonet』でも、ムターズ・ヴィルトゥオージの真心のこもった芸術性を引き出している。ジョン・ウィリアムズが彼らのために特別に編曲したアンコール曲も同様で、映画『シンドラーのリスト』のテーマ曲が心にしみ渡るように演奏され、コンサートは幕を閉じる。