

Dijonが2025年で特に期待を集めたインディーロックアルバム(ジャスティン・ヴァーノンことボン・イヴェールの2部作『SABLE, fABLE』)と、最も驚くべきポップスターのカムバック作(ジャスティン・ビーバーの『SWAG』)のプロデュースを手掛けたという事実は、現代音楽シーンにおける彼の特異な地位を物語っている。そしてDijonがジャスティン・ビーバーの熱狂的ファンの間で最も人気のある検索ワードになってからわずか数週間後にリリースされたこの2作目のフルアルバム『Baby』は、新しくできたファンを彼のローファイなアンダーワールドへとより深く誘い込むための招待状となった。そして、長年のDijonファンにとっては、彼が最高のプロダクションのアイデアをすべてジャスティンという名の有名人にばかり流しているわけではないという安心感を与えるものであった。 2曲が連続する冒頭のトラック「Baby!」と「Another Baby!」でのDijonは、プリンスとサルバドール・ダリを足して2で割ったような存在として、ピッチシフトを駆使したシュルレアリスム的なスタイルで官能的なセレナーデを奏でてみせる。それはまるで深夜に行われたプリンスの「Paisley Park」セッションのテープが朝日を浴びて溶けていくかのような音像だ。そしてサウンドコラージュから成る「HIGHER!」のゴスペル、「FIRE!」のゆがんだダブソウル、あるいは犬の鳴き声が効果的なフォークバラード「loyal & marie」など、どんなスタイルも自在に操るDijonの真の強みは、心の奥から湧き出るような曲を作った上で絶妙な不安定さを生み出していくことにある。まるで「このボタンを押したらどうなる?」とでも言いたげなイタズラ心で次々と音の要素を出し入れしながら、リスナーを魅了する手腕にあるのだ。