あにゅー

あにゅー

「バンドを始めた15歳くらいの頃の『せーの』で音を鳴らした無敵感がありました」。RADWIMPSの野田洋次郎(Vo/G/Piano)は、メジャー9作目のフルアルバム『あにゅー』についてApple Musicに語る。前作『FOREVER DAZE』(2021年)から4年の間、彼らは映画の劇伴を複数手掛け、2度のワールドツアーを行うなど、充実した日々を送っていた。そしてメジャーデビュー20周年となる2025年、アルバム制作に取りかかる時点で、「すでに方向性ははっきりと定まっていた」と野田は語る。「バンドが新体制になったタイミングでもあったから、今の俺らが表現するバンドのカッコよさを意識して、約半年で一気に作りました。ライブ感にこだわり、その日その瞬間だけ鳴るバンドの音は宇宙でこの一発しかないという事実と向き合い、勝負をかけた。だから極めてバンドらしい作品になったと思います」。怒涛(どとう)の制作期間を振り返って「楽しかった」と語る武田祐介(B)にも充実感がにじむ。「自分のレベルが足りないなと思うこともあったけど、壁にぶち当たるたびに、まだやれることがあるという発見もあった。デビューから20年たってもこういう感情でいられるんだって、うれしく思いました」 バンドという原点に立ち返り、野田はソングライターとしての揺るぎない自分を見つけたという。「40歳になったけど、いまだに小学生からも中二病とか言われる(笑)。これはもう性分だと思います。恋愛観も根っこの部分は変わらない。好きな人への切実な思いや、周りが目に入らなくなるような純度の高さは自分の中にずっとあるし、むしろどんどん濃くなっていく気がして怖い(笑)」と語る野田の表情は、どこか吹っ切れたような清々しさと強さがある。「そもそも俺ら、そんなにカッコいいもんじゃないですから。まさにRADWIMPSというバンド名自体がそうで、カッコよくありたいけど、しゃばくてダサい自分も知ってる。音楽家としてその両方をちゃんと表現したいし、今回その原点をちゃんと表現できた手応えがすごくあります」。タイトルは“改めて”を意味する“anew”をひらがなで表記したもの。「デビューから20年ロックバンドをやってきて、改めてバンドを核にしたアルバムができてよかった。俺らが夢見て、憧れたバンド像をもう1回体現できた」と武田は笑顔を見せる。ここからは野田と武田に、いくつかの楽曲について解説してもらおう。 命題 野田:中南米ツアーやアジアツアーの間、ラップトップとギターとマイクをホテルに持ち込み、デモを作っては武田に送ってました。毎日ライブがめちゃくちゃ楽しくて幸せで、「よっしゃバンドやるぞ」と加速する感じがあった。この曲をバンドで「せーの」で鳴らして、「あ、このやり方でアルバムができるな」って気がしました。 武田:ライブで全力出し切ってホテルに帰った後に野田からデモが送られてくるから、この人どんだけストイックなんだと思ってました(笑)。 まーふぁか 野田:タイトルは造語で、俺の中でひらめいたものを採用しました。RADWIMPSは本来、何言ってるのか分かんないタイトルと面倒くさい歌詞を書き、クラスの端っこで楽しく音楽をやってるバンドだった。でもここ10年ほどは、いつの間にか学園祭のど真ん中で演奏するバンドになったような、不思議なところに連れていってもらえた気がします。だけどやっぱり俺らはクラスの1人か2人が理解できるような音楽を作るバンドだったと思って、その感覚をこのアルバムで自然と取り戻せました。 DASAI DAZAI 野田:人の必死な姿や切実な思いは、笑われることもある。太宰治の生き方をどう評価するかは人それぞれだと思うし、俺の歌詞も、人によってはめちゃくちゃ気持ち悪いと思われるかもしれない。でも、誰かに思いを届けたい時は、言葉を選んでいられない。俺は、100人中90人に笑われて、「ダッセーな」と思われてもいいから、10人に一生残る何かを届けたい。それが俺にとっての音楽だと再確認できました。 賜物 野田:アルバム1作分くらいの労力をかけた曲。RADWIMPSの新しい可能性を探り、今の俺らにとっての音楽と、まだ世の中にない新しい音楽のすべてを表現したかった。実は朝ドラの主題歌としてすごくいいバラードを録音していたんだけど、それじゃないものがほしいと思って、10か月くらいかけてずっと作っていました。「これで完成」という言葉を30回くらい言って、しまいには誰も俺の言うことを信用しなくなった(笑)。新しいものを表現するのは苦しいけど、ちゃんとやり切りたかった。自分の音楽がなくても世の中は回るとしても、改めて「俺らの音楽を聴いてくれ。俺らの音楽は聴く価値があるし、ここにしかないものがある」と提示したかった。こんな挑戦を格式ある朝ドラの主題歌としてやれたことを誇りに思います。 武田:この間、うちの子が何か歌ってるなと思って、よく聴いたらこの曲を歌ってました。パパのやってる音楽だからではなく、朝ドラで流れてるのを聴いて覚えたみたい。まだ小さいからうまくは歌えないけど、ちゃんと子どもにも届いていて、すごくうれしかったです。 筆舌 野田:作りながら、すごく特別な曲になると感じていました。制作も終盤になり、アルバムの全体像が見えてきて9曲くらいのミニマムな作品にしようかなと思っていた時に、この曲ができた。歌詞とメロディが同時に、どうしようもなく出てくる。そういうことがたまに起こります。栓が抜けて水がドバッとあふれ出てくるような感じで、そうなるともう出し切るしかないから、しっかり歌にしようと思いました。