スタッフメモ 「父親が他界した年齢に近づいたのが大きなきっかけになったと思います」。福山雅治は、アルバム『AKIRA』についてApple Musicに語る。“AKIRA”とは、福山が17歳のときに亡くなった父親の名前。福山が自身の父との別離について歌うのは、今作が初となる。「父はがんとの闘病生活を約1年続けました。その間、母は僕たちに朝食を作り、昼間は仕事に行き、夕方に家に戻ってまた食事を作り、夜は病室に寝泊まりしながら父の看病をしていた。当時はまだQOL(Quality of Lifeの略。闘病する中で、自分らしい生活の質を維持すること)のような病気との向き合い方は浸透しておらず、手術や放射線療法、抗がん剤投与など積極治療を受けていた。けれど、10代の僕から見てもみるみる衰弱していくのが分かる。僕と兄貴が高校を卒業して就職するまでは生きたいと父は最期まで願っていた。だから、本当に無念だったと思います」。17歳の多感な時期を過ごす福山自身もまた、苦しみに押しつぶされそうになっていた。その苦しみから逃れるように、彼は傍らにあったギターを手に取った。「“音楽によって救われた”という言葉をよく聞くけれど、自分にとってその言葉は少し補足説明が必要で。ソングライティングすること、想いや感情を音楽や歌詞で表現することによって、自分自身を少しでも救済すること、というのが音楽と自分の関係性かと。それが僕のソングライティングの動機であり、シンガーソングライターを目指したきっかけでもあります」

父を亡くした後、親の思いを酌んで一度は地元の長崎で就職もした。けれどその生活は長く続かず、故郷を飛び出して東京へ向かった。「まだ18歳で、自分のこれからの人生を、親のために地元で生きてゆくというのはできなかったんですよね。あてどなく、“自分の未知なる可能性に懸ける”という根拠のない自信だけで長崎を出ました」。それから長い年月を経て、福山は2020年にデビュー30周年を迎えた。そして強い覚悟を持って、前作『HUMAN』のリリースから6年8か月ぶりとなるオリジナルアルバム『AKIRA』を創り上げた。「幸せなことに、30年間も音楽活動を続けることができたのは、支えて応援してくれて、かつ僕の音楽に真摯に向き合ってくれたファンがいるから。今回、一番の恩返しをしなければならないファンに向けて、“僕のソングライティングの根源と動機”を伝えるべきだと思った。51歳の僕が、長崎で苦しんでいた17歳の僕を迎えに行く旅。過去の自分を救済したいと願うこの感情を音楽で表現する。そのドキュメントを、ありのままのソングライティングを届けるのが恩返しになるのでは、と」

父への慕情と生命のつながりを描くタイトル曲「AKIRA」。受け継いだ命を燃やし続ける覚悟を歌う「革命」。五感を解放して人生を味わおうといざなう「漂流せよ」。福山は自分の中に脈々と流れる父からの“血の轍(わだち)”を感じながら、長いアーティスト生活の中で培った人生哲学を歌う。バラエティに富んだ17曲の中で、特にユニークなのが、パスカルの哲学書『パンセ』にインスピレーションを受けたという「ボーッ」。「『パンセ』を読むと、人間は1670年当時からいろんなことをうじうじ考えていたことが分かって、ほっとするんですよね。パスカルが言うように、人間とは全宇宙の中で脆弱な生き物だけど、“考える”というのは人間が持つ最大の武器であり能力である。でもやっぱり、『今は何も考えたくない!』と思うこともあるから、じゃあボーッとするのと考えることの折衷案で、“ボーッと考えるのはどうだ”っていう自分自身への提案です」

自身の人間くさい部分をさらけ出し、ファンと真っすぐに向き合う「始まりがまた始まってゆく」も感動的だ。人は皆それぞれの人生を生きるが、同じ時を共有してつながり合えることの喜びや大切さを教えてくれる。そしてラストを飾るのは、自らの死生観を歌う「彼方で」。この曲で彼は、「死」に対面することによって生まれる“喪失感という存在感”への切実な思いを吐露する。「心にあいた穴をふさぐという言葉がありますけど、完全にふさがらなくてもいいんじゃないかと、年齢を重ねるにつれ思うようになってきたんです。ふさがらない穴や消えない傷痕というのは、大切な人が確かに自分の中にいたという証。痛みや喪失感と共に生きていくことで、その人がいまだに自分の中に生きていると言えると思う。残された人の、それでも生きてゆこうとする強さを表現したかったんです」。父との別離から始まった音楽の旅。それは、自身の表現活動の根幹に迫った『AKIRA』により一つの大きな節目を迎えた。もちろんそれはゴールではない。ここからさらに表現の深みを増していくであろうシンガーソングライター福山雅治の、新たな旅の始まりの合図である。

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