哀愁演劇

哀愁演劇

「今までで一番やりたいことを詰め込めたアルバムになりました。クオリティがかなり上がったと思います」と、川谷絵音(Vo/G)はindigo la Endの8作目のアルバム『哀愁演劇』についてApple Musicに語る。2015年のメジャーデビュー以来、毎年のようにフルアルバムを発表してきた彼らだが、今回初めて2年半という長い制作期間を取った。その間にバンドは何本ものツアーを回って確かな成長を遂げ、その手応えをもって制作に臨んだ。 「前作『夜行秘密』は大衆音楽を意識したものの、大衆的になり切れなかったという思いが残った」と言う川谷。ポップスとしてしっかり機能する音楽を作るべく、まず“大衆演劇”という言葉を思い付き、アルバムコンセプトはそれをもじって『哀愁演劇』とした。哀愁という言葉を選んだのは、「僕が曲を作るとどうしても哀愁が漂ってしまうから」だと川谷は解説する。「メジャーコードであっても、あるポイントでメロディがふと切なさを醸すような、ちょっとした哀愁を漂わせる音楽が、自分の作るものの特徴になっていると思う。演劇というテーマもindigo la Endと親和性が高いと思ったし、実際どんどん曲ができました」。やるせない現実が芝居の中のものであってほしいと願う「芝居」や、思いが深い故にうまく振る舞えない自分をアドリブが利かない役者に例えた「瞳のアドリブ」。4人の演奏がさまざまな物語を描く。 Apple Musicでは本作をドルビーアトモスによる空間オーディオで聴くことができる。川谷は「空間オーディオだからこそ初めて気付ける音もあるのでは」と期待を寄せる。「indigo la Endの楽曲はかなり多層的な構造をしているけど、空間オーディオだと各楽器の音が一音一音はっきりと聴き取れる。僕らとしてはがんばって作ったものがすべてきちんとリスナーに届くという喜びがあります」。indigo la Endが演劇的世界に誘う本作について、ここからは川谷に、いくつかの楽曲を解説してもらおう。 カンナ 僕はよく宅配で花を買い、花のある空間で曲を作っているので、音楽にもよく花のモチーフを使います。カンナという花には“妄想”や“堅実な未来”という花言葉があり、その違う意味を組み合わせることで、“こう思っていたのに実は違った”という状況を描いています。 芝居 冒頭3曲は比較的とっつきやすい曲を並べ、この曲あたりからだんだんドープにするという流れにしています。indigo la Endは恋愛の楽曲というイメージがある人が多いと思うんですけど、この曲と次の「愉楽」は、自分の内面や世間に対して思うことを歌っています。個人的なことを歌っている部分もありますが、いろんな人がいろんな意味を落とし込める曲になったと思います。 瞳のアドリブ 「アドリブ」という仮タイトルで、メンバーのアドリブ演奏をどこかに入れることを決めて作り始めました。例えば2番のAメロにベースとドラムのアドリブが入っていて、ライブではまた違う演奏になったりします。この曲には僕らの過去曲に対するオマージュを入れています。 ヴァイオレット 原田知世さんに提供した楽曲のセルフカバーです。原田さんのめいっ子さんがindigo la Endのファンだそうで、それで僕らを知ってオファーしてくださいました。某アニメの曲を勝手にイメージして作った曲で、もともとindigo la Endでやろうかなと思っていたメロディをモチーフにしています。なのでセルフカバーをするのは必然でした。 パロディ 「瞳のアドリブ」と同時期に作った曲。歌詞や演奏の一部に、自分たちの過去曲をそのまま使っています。パロディやペーソスといったモチーフを思いついたのは、演劇というテーマがあったからこそ。この曲は「パッパパ、パロディのヒント」のコーラス部分から曲を作り始め、このコーラスの重なりがすごいことになっています(笑)。 Gross indigo la Endのアルバムは毎回オルタナティブな曲調を1曲は入れていて、今回はこの曲がそれに当たります。ギターを歪ませてかき鳴らすロックの原点のような曲を作りたくて、でもそれだけで終わるのではなく、途中で少しソフトになったり、アウトロに意味の分からない展開があったり(笑)、 一曲の中にかなりいろんな物語があります。「Gross」は“気持ちの悪い”という意味の言葉ですが、最近は反対に褒め言葉としても使われているらしくて、たぶん日本語の“ヤバい”に似てるんじゃないかな。一つの言葉が真反対の意味を持つことに面白さを感じます。 プルシュカ 某アニメ映画に出てくるキャラクターを見て、これは絶対に曲にしたいなと思って書きました。僕の中で思い入れが深く、歌詞もメロディもミックスも全部気に入っています。アルバムの最後はこの曲と「ヴァイオレット」で迷ったんですけど、余韻を残して終わる「ヴァイオレット」に対して、「プルシュカ」はジャッと切って終わる。それが演劇のバシッと幕が降りる感じに合っているなと思い、この曲を最後にしました。

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