「いろんな挑戦をしてきたことで、かなり吹っ切れました」。CLRことラランドのサーヤは、礼賛のEP『PEAK TIME』についてApple Musicに語る。「いい面と悪い面、どちらのピークタイムも表現できているかなと思っていて。（1曲目の『PEAK TIME』は）いい方。いろいろなライブやフェスを経験して、まだまだやりたいことが出てくるなという実感があったので。あと、最初のアルバムよりもかなり前向きで、ポジティブな感じになったと自分でも思います」 お笑い芸人／タレントのサーヤが音楽アーティストとしての才能を開花させ、ヒップホップバンド礼賛のフロントに立って約2年。彼女の音楽的ポテンシャルをいち早く見抜いたのが、このバンドのギター担当で、プロデューサー的な役割も担う川谷絵音だ。「サーヤちゃんはいつも自然な感じなのがいい。僕ら（演奏陣）はずっと音楽畑にいるので音を鳴らすにしてもモニターの調子とか細かいことが気になっちゃうんだけど、サーヤちゃんはどんな環境でも『大丈夫です』って言えるのがすごい。僕らもそうならないと駄目だなって改めて思います」 礼賛のリリックはサーヤが手掛け、その制作スタイルは実にユニークだ。「日常で嫌なことがあったら、オチが付くものはお笑いに落とし込んで、ただモヤモヤと終わるものは礼賛の歌詞に昇華しています。生活の中で体験したことはすべて生かす、これを私は“フードロス削減”と呼んでいるんです」。そのリリックセンスはやはりミュージシャンとは異なるもので、川谷は「サーヤちゃん以外誰も思いつかないんじゃないかと思うパンチラインがあって、本当にカッコいい」と賞賛する。 多くのバンドやユニットを作ってきた川谷絵音だが、その中でも礼賛はヒップホップの要素を強く感じさせる。そこにはNe-YoやBeyoncéを聴きながら育ったサーヤのバックグラウンドが影響している。「例えば『オーバーキル』はロックなんですけど、僕らがどんなにロックな演奏をしても、サーヤちゃんがヒップホップに持っていく。その絶妙なバランス感覚が空間オーディオでうまく表れています」。異ジャンルの才能が掛け合わされることで生まれた本作について、ここからは2人にいくつかの曲について解説してもらおう。 むちっ サーヤ：ボディポジティブなメッセージも込めているけど、それ以上に精神的なことを歌った曲です。今はどの業界でも不景気をビンビンに感じるから、もっと豊かだった、はみ出すくらいいろんなことをしていた時代を経験した人はうらやましいなとすごく思う。その気持ちを、ちょっとセクシーでかわいいメロディに乗せて書きました。 スケベなだけで金がない 川谷：歌も演奏も同時に、一瞬でできた曲。サーヤちゃんが「ふざけたやつ作りたい」みたいなことを話していたので、僕らも適当にふざけて楽器の音を出してみたところ、サーヤちゃんがこの歌メロをいきなり乗せてきて「すごくいいじゃん」と盛り上がって。その流れのまま1時間くらいで完成しました。 Chaos 川谷：すごく変な曲で、制作過程もアンコントロールな感じでした。「サーヤちゃんはどう歌を入れるんだろう」と思っていたら予想外のところに入ってくるし、誰も何も分かってない状態で、作っている間はずっとカオス状態だったけど、最後にギュッとうまく締まりました。 生活 サーヤ：芸人や一タレントとして、テレビとかで裏側の部分や感動的なエピソードを普通にしゃべるのはすごい嫌だなと思う。だから歌詞に「マジなことをマジな顔して話すのはスベってる」と書いたんですけど、この曲の演奏を聴いた時に、この曲なら言いたいことが言えると直感的に思いました。今まであんまりこんなふうに生々しく書いたことはなかったけど、今回初めてちゃんと現状と向き合って書いた曲です。