「このアルバムを通して、人間たる部分を表現できたらと思っていました」と、SUPER BEAVERの渋谷龍太(Vo)は9作目のアルバム『音楽』について、Apple Musicに語る。メジャー復帰第2作となった前作『東京』から2年、この間にバンドは日本全国を回り、多くのライブを開催した。その中で強く感じることがあったと渋谷は言う。「自分たちの音楽は、メンバー4人だけで成り立つものではないと気付いたんです。見てくださる方が僕たちの気持ちを受け取ってくれて、それを自分の気持ちとして消化した後に、僕たちにまた投げ返してくれる。その気持ちの往来を何度も何度も繰り返して、SUPER BEAVERの『音楽』はようやく完成に近づいていくんです」 サウンドプロデューサーとして加わった河野圭の存在も大きかった。これまでずっと自分たちだけで楽曲制作をしていた彼らにとって外部のプロデューサーを迎えるのは一つの決断だったが、バンドメンバーと同じ目線で一緒にワクワクしながら制作に向かう河野の存在は、バンドに新鮮な刺激を与えた。「河野さんには僕らの新しい引き出しを存分に開けていただきました。『こんなアプローチがあるんだ、最高!』みたいな感じで演奏隊の3人もめちゃくちゃ楽しそうで、バンド結成当初のような空気さえ感じました」と渋谷は言う。レコーディング現場でも、ライブの場でも、生身の人間と人間が体温を寄せ合い、魂をぶつけ合うことでSUPER BEAVERの『音楽』は生まれる。 アルバムのラストを飾る「小さな革命」で彼らは、「当事者であれ」というメッセージを力強く伝える。当事者とは『音楽』を生み出すSUPER BEAVERのメンバーやスタッフであり、『音楽』を受け取るすべての人のことだ。「4人で作るものより、あなたと作ったほうが絶対面白いに決まってる。だから、『あんたのおかげでできてんの』と強く言いたくなったんです」。ここからは彼に、いくつかの楽曲を解説してもらおう。 切望 ある意味これまでの集大成的な楽曲で、1曲目にふさわしいと思います。僕は10年前の楽曲「らしさ」で「自分らしさってなんだ?」と問いかけました。今の時代、よく「自分らしく」とか言われるけど、その言葉の前提として、何か決められた枠組みがあるようで違和感がある。僕らはみんな生まれた時からバラバラのスタート地点に立っているんだから、妙なカテゴライズはいらない。それはSUPER BEAVERがずっと言い続けてきたことで、大事なことなので新たに何度でも言い直したいという強い気持ちを込めています。 リビング 作詞/作曲をしている柳沢(亮太/G)がこの曲のデモを持ってきた時に、「よくぞこういう気だるい曲を持ってきてくれた」と思いました。僕らはバンドを組んで20年目になるんですけど、この年齢だからこそできる表現や、気持ちの込め方がこの曲に顕著に出ている。時間を経ての表現が心に染みるし、すごく乙だなと思っています。 めくばせ 人とのつながり方を歌った曲。軽やかな曲調ですが、斬新な音のアプローチをしてみようとみんなで計画し、緻密に構築して作ったものです。おかげでしっかりとしたグルーヴが生まれ、よりメッセージが届く楽曲になったと思います。 奪還 この曲では、ボーカルの立ち位置を後ろに置きました。いつもはフロントに立つボーカルの僕が一番目立つんだけど、3人の演奏がすごくカッコよかったので、「とにかく3人、前に出て」と(笑)。音作りをする上ではどこに重心を置くかを結構考えているので、そういう音としての楽しさも感じてもらえたらいいなと思います。 幸せのために生きているだけさ 誰かとどれだけ長く一緒にいようが、血がつながっていようが、やっぱり自分以外は他人だなと思う。それは決して悲観的になっているのではなく、すごくうれしいことだと思うんです。相手を100パーセント理解できないからこそ、人は想像力を使って相手の心情をおもんぱかり、それが結果的に思いやりや愛情になる。それぞれの思う幸せのかたちは絶対にかぶらないから、自分の幸せも相手の幸せも大事にしたいと思える。この曲を聴いた人が、自分という個人をより強く意識してもらえるようになったらうれしいです。 裸 歌入れはいつも迷いなくいけるんですが、この曲はめっちゃ迷いました。戸惑いや葛藤を歌っている曲なので、僕自身も歌っていてどれが正解なのか分からなくなってしまって。最後にメンバーに「大丈夫だよ、今の良かったよ」と言われるまで8回くらい歌って、一番苦労した曲かもしれない。リズムマシーンとアコースティックギターと歌だけのシンプルなアレンジなので、次の曲の「儚くない」でリズム隊が帰ってくると、「やっぱこれだよな」という安堵感が生まれる。その意味で、SUPER BEAVERというバンドは4人で成り立っているんだと再認識させる力を持つ楽曲だなと思います。
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- 2023年
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