狂言

Ado

狂言

「2021年はまるで人様の人生を歩んでいるようでした」と、AdoはApple Musicに語る。2021年、音楽シーンはAdoの話題で持ち切りだった。メジャーデビュー曲「うっせぇわ」が空前の大ヒットとなり、小さな子どもたちさえも口々に“うっせえ うっせえ うっせえわ”と歌う社会現象となった。「本当にいろんなところで私の声が鳴り響いていて、自分の声が自分の声じゃないような感覚でした。いろんな方にAdoという存在を知っていただけて、それこそ自分がリスナーとして聴いていた歌い手さんにAdoの楽曲をカバーしていただけた時はもうおかしくなっちゃって(笑)。信じられないと思って感激しました」

まさに日本中を席巻したAdo。彼女のファーストアルバム『狂言』には、その卓越した歌唱力を存分に味わえる14曲がそろった。クリエイター陣は1曲ごとに異なるボーカロイドプロデューサーを迎え、曲調もEDM、ヒップホップ、ジャジーなものまで多種多様。いずれも難易度の高い楽曲ばかりだが、Adoは変幻自在に歌の表情を変えてみせる。「ボカロPさんによって、描く世界観や言葉、伝えたいことも全部違って、いろんな主人公になり切れて面白かったです。ただ、ボカロPの皆さんに頂くデモはボーカロイドが歌唱していることが多く、それを人間の声で表現する難しさがありました。そんなとき、なんで私はボーカロイドじゃないんだろうって悔やみました。ボカロだったら歌えるのにって」

ボーカロイドが歌うデモを、いかに自分らしく歌うか。Adoはたった一人でスタジオに入り、セルフディレクションによって歌入れを行った。ちなみに彼女はこれまでボーカルトレーニングを受けたことはほとんどないという。「がなりやビブラートなど、技術的なところは全部独学です。基本的には歌詞の意味がそのまま伝わるように、ボカロの声がいいなと思うところはそのままデモの感じを生かし、私らしさを出した方が流れとしていいかなと思えばアレンジもする。歌のストーリーが成り立つように歌い方を変えています」

例えば「うっせぇわ」のサビ前で聴かせる、“はあ?”という合いの手。楽曲の中でもひときわ印象的なこの部分の表現方法について、Adoはこう説明する。「“はあ?”の部分はバックの音がなくて、一瞬声だけになる。そこでしょぼい声を出したら聴いてる人が冷めちゃうだろうから、ここは大事だと思って、がなりました。続く“うっせえ うっせえ うっせえわ”の部分は、本当は地声で張りたかったんですけど、納得いく感じで張れなくて裏声で歌いました。そうすると、その後に続く“あなたが思うより健康です”以降の部分がより強調できるなと思ったので、強調したいことは地声でドンと張って聴かせる感じでやりました」。感性と技巧をフルに駆使して歌う、まさに天才的な歌い手といえるエピソードだ。

今やJ-Popシーンの最前線に立つ彼女だが、歌い手としての役割を脱いだ部分では、繊細な19歳の顔を見せる。彼女は自分自身について「すごくネガティブで、容姿と中身を含め、今もまだ自分のことを好きになれていないところがある」という。そんな彼女が共感を覚えた楽曲が、世界から疎外されたような気分を歌う「ギラギラ」だった。「この曲は自分と重なる部分が多かったので、曲の主人公になり切りながらも自分のありのままを歌っている感じがしました。反響も大きくて、“私も自分の顔に『ギラギラ』の女の子と同じあざがあります。でもこの曲を聴いて自分のあざも愛してあげようと思えたし、なんだか救われました”と言ってくださる方もいて、その方に『ギラギラ』という存在があってよかったなと思います」

『狂言』というタイトルにも、聴き手に対するAdoの思いが込められている。狂言では主⼈公をシテ、 脇役をアドと呼ぶ。そしてAdoは「私の曲を聴いてくださる⽅々の代わりに戦える存在になりたい。誰かの⼈⽣の脇役になれたら」という思いで自らのアーティスト名を付けた。そしてその名の通り、Adoの歌は今、この世界で生きづらさや憤りを感じながら生きるたくさんの人たちを支えている。

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